児童養護施設を支えるプロボノの力
-プロボノ活動を行う意義と挑戦-

児童養護施設など社会的養護を必要とする現場では、深刻な職員不足が続いています。その課題解決に向けて、職員の確保・定着支援に取り組むNPO法人チャイボラ(以下チャイボラ)に対し、KPMGコンサルティングはプロボノ活動*として支援を行っています。チャイボラでは業務拡大に伴って、施設への就職希望者や関連企業、支援者など、取り扱う情報量が増加しており、このプロボノ活動では、個人情報の取扱いに関するルール策定、運用体制の改善、セキュリティ強化策の提言・実装支援などに取り組んでいます。一般企業とは異なる規模やITリテラシー、そしてプロボノ活動ならではの制約があるなか、どのようにプロジェクトを推進してきたのかをプロジェクトメンバーに尋ねました。

プロボノ活動:報酬を目的とせず、仕事で培った専門性やスキルを活かして社会や地域の課題解決に取り組む活動のこと。

豊田

J. N

Y. Y

Talk 01

プロボノプロジェクトの概要

Q

まず、チャイボラとの最初の接点とプロボノプロジェクトの概要についてお聞かせください。

豊田

チャイボラ代表の大山氏が抱える課題について、社内のSustainability Management & Citizenship(SMC)チームを通じて相談を受けたのがきっかけです。当時チャイボラは、急激な事業規模の拡大にも関わらず、チャイボラの職員は兼業の方が多く、セキュリティ上のリスク対応に大きな余地がある状態でした。組織拡大に伴い、情報セキュリティの強化が急務となり、KPMGコンサルティングへの相談につながったという背景があります。
支援内容の主軸は、セキュリティ施策の提言と実装支援です。当初は最小限のセキュリティ対策から着手する想定でしたが、システムや運用、職員の意識を含め、組織全体の底上げが必要な状況でした。
Q

どのようなメンバー構成で進めているのでしょうか。

豊田

中心メンバーは、私とJ.Nさん、Y.Yさんの3名で、C/BAクラスのメンバー1名が2~3ヵ月ごとに交代しながら参画する体制で進めています。開始からすでに約2年が経過しましたが、プロボノ活動の特性上、固定メンバーの長期アサインが難しく、別案件との兼務が前提となるため、社内リソースの確保は難しい状況です。

J. N

C/BAにとっては、要件定義、提案、アウトプット作成のほか、クライアント対応までを一貫して担える貴重な環境であるため、短期間ながらモチベーション高く取り組んでいます。
Talk 02

メンバーの入れ替えに対する工夫

Q

実働要員であるC/BAの入れ替わりが頻繁な状況で、品質担保のために工夫していることはありますか。

Y. Y

アサイン時に、チャイボラの事業背景や現場課題を丁寧に説明しています。また、各フェーズでのドキュメントを体系立てて整理しており、それらを読むだけで全体像を把握できるようにしています。

J. N

私たち3名が全体方針と各フェーズで実施すべき事項を把握しているため、C/BAにはまず「何を、いつまでに、どのように実施すべきか」を自分で考えてもらい、方向性とのズレが生じた際に修正する形で進めています。各人の自律的な成長を促すことが品質向上につながっています。
Q

プロボノ活動に参画したC/BAのメンバーを見て、印象的だったことはありますか。

Y. Y

アサイン当初はこちらからスケジュール管理などについてもアドバイスする必要がありましたが、「自走すること」を期待しているため、自発的に計画を立て、レビューのタイミングなどもコントロールしながら進めてくれるようになりました。アサイン当初と終了時点では、明らかにエンジンのかかり方が変わっていると感じます。

J. N

コミュニケーションに苦手意識を持っていたメンバーが、プロボノ活動を通じてどんどん表情が明るくなり、クライアントのイベントに自発的に参加するなどの変化が見られました。心理的安全性が確保されることにより、メンバーの能力が格段に発揮されるということを実感しました。

豊田

プロボノ活動は収益を目的としない分、クライアントから直接感謝の言葉をいただく機会が多く、「よい仕事をすればよい反応を得られる」という成功体験の場になりやすいと考えています。
Talk 03

具体的なプロジェクトの施策

Q

具体的な活動の内容について、法人全体の情報セキュリティ対策強化に向けて、どのような施策を実施したのでしょうか。

豊田

まず社内のセキュリティ対応状況をヒト・モノ(システム)の両面で現状分析し、個人情報を取り扱うNPO法人として必要なセキュリティ対策のロードマップを描きました。ヒアリングを通して、取り扱う情報や現場のセキュリティ意識、セキュリティシステムの運用実態などを確認したうえで、必要な施策を一覧化し、優先度を踏まえて実行しています。主な施策は以下のとおりです。
  • 情報セキュリティガイドラインの策定
  • アカウント管理運用の見直し
  • 初心者向けセキュリティ勉強会の資料作成および講師
  • 外部公開ポータルサイト刷新の要件定義およびベンダー選定支援
Q

企業向けのプロジェクトで蓄積してきたナレッジをどのように活用しましたか。

豊田

今回支援したチャイボラは、通常支援している大企業とは規模やITリテラシーが異なるため、企業向けのナレッジはあまり活用できません。そのため、キーマン3人のナレッジを集め、ゼロからガイドラインや勉強会資料を作成しました。

J. N

今回実施した工夫としては、専門用語を使わず、一言一句読み上げて説明し、理解度を図るなど、より丁寧なアプローチを心掛けています。印象的なエピソードがあれば教えてください。
Q

印象的なエピソードがあれば教えてください。

豊田

KPMGコンサルティングで作成した、初心者向けのサイバーセキュリティ資料を用いて研修会を開催させていただいたのですが、実施前と実施後では皆さんのセキュリティに対する意識と行動が目に見えて大きく変わったことです。チャイボラのトップ層もサイバー攻撃の脅威が身近にあることに気がつき、率先して法人内での注意喚起を行うようになったことが印象的でした。
2つ目は、現在取り組んでいるホームページ刷新の見積もり精査です。システム更改に向けて複数のベンダーから見積もりを入手したが、その提示金額の妥当性が判断できないという相談を受けました。チャイボラの更改要望を業務要件として網羅的に可視化整理して精査したところ、フルスクラッチではなく多くの同等機能を有するSaaSを活用することで、約2分の1以下の費用でも同様以上の機能が柔軟に実現でき、セキュリティ向上や運用負荷も軽減できることが判明しました。ベンダーから提示された額の妥当性を判断できずに受け入れる可能性があったため、KPMGが無用なコストを防ぐことができた意義は大きかったと感じています。

Y. Y

支援開始当初は、個人で利用されるPCの取り扱いにセキュリティリスクがある行為も散見され、セキュリティ意識の変革が必要でしたが、徐々に意識の向上や知識の深化が進んでいきました。先日、法人が作成した情報セキュリティに関するセミナー資料の確認依頼がありましたが、支援前と比較して内容が非常に充実しており、クライアント内での大きな変化を感じています。
Talk 04

プロボノ活動を続ける原動力

Q

プロボノ活動ならではのやりがいがある一方、リソースの確保やゼロからの意識醸成など、労力を要する一面もあると思います。そのような状況下においても、プロボノ活動を続ける原動力について教えてください。

豊田

さまざまなハードルを乗り越えていくための一番のモチベーションは、クライアントの方々の「困っている子どもや保護者、そしてその支援者の方々を支えたい」という強い想いや姿勢です。困難な環境下にある児童や支援が必要な方々に手を差し伸べ、適切な支援を受けられる仕組みを構築しようという理念に共感しているため、「この人たちのために何かしたい」という気持ちが大きいです。アサインされたメンバーも同様の想いを共有していることから、プロボノ活動に対する理解とモチベーションの向上にもつながり、短期で満足いただけるサービスを提供できていると考えます。

J. N

大山代表や職員の皆さんの「社会課題を解決したい」という情熱に触れることで、むしろ私たちがパワーをもらっているので、プロボノ活動を通じてお返しをしたい、という想いが強いです。

Y. Y

私も、「この方々のために何かしたい」という想いが原動力です。彼らの理念への共感から、とても良いコミュニケーションが取れていると思います。クライアントから感謝状(メッセージ全文はこちら  )をいただいたこともあり、良好な関係を築くことができています。

豊田

NPO法人から支援を求める声は多く、プロボノ活動としてご支援することで、企業のプロモーションとしての効果も大きいと考えています。プロボノは単なる慈善活動ではなく、企業価値や信頼を高める重要な取組みです。

J. N

プロボノ活動について、ライトなイメージを持っている方もいるかもしれませんが、企業向け支援と変わりなく、一人のプロフェッショナルとして責任を持って活動を行っています。

Y. Y

自分で考えてアウトプットする力が磨かれ、クライアントから直接パワーをいただける、貴重な機会です。「チャンスがあればぜひ挑戦したい」と思えるよう、活動について広めていきたいと思います 。
Talk 05

メッセージ

Q

プロボノ活動や社会課題解決に興味のある方へ、一言お願いします。

豊田

微力でも社会貢献をしたい、というモチベーションが重要です。KPMGコンサルティングでは、プロジェクトのアサイン時もこの観点を重視しています。

J. N

プロボノ活動は決して楽な業務ではなく、泥臭い面も多くあります。まずは支援先の理念を知り、共感できることが大前提です。チャレンジングな環境ですが、成長に向けてぜひ挑戦してほしいです。

Y. Y

自分の専門性が、誰かの力になる実感を得られるのが、プロボノ活動の魅力だと思います。また、社会課題に向き合う経験は、プロフェッショナルとしての視野も広げてくれるチャンスですので、興味があればぜひ、積極的にチャレンジしていただきたいと思います。

※記事の記載内容は2026年4月時点のものとなります。

チャイボラ代表・大山氏からの
感謝のメッセージ

KPMGコンサルティングの
みなさまへ

チャイボラはこれまでいくつかの企業さまからの伴走支援をいただいてきました。しかし、なかなかうまくいかず、同様の悩みを抱える団体の話はよく耳にします。

今回KPMGの皆さんが伴走してくださって、心から感謝しています。許されるのであれば、これからもずっとサポートいただきたいです。そう心から思えるのはKPMGの皆さんが私たちの活動や、チャイボラのメンバーの気持ちをとても大事に想い、活動をリスペクトしてくださっているからです。これまで私たちの想いを実現することを最優先して、私たちの成果を心から喜んでくださっているのが、表情や普段のやり取りで感じ取ることができます。そして何より、圧倒的な専門性と、私たちには到底できないリサーチ力には脱帽です。

ここまでしていただけるボランティアがこの世にあるのでしょうか。どれだけ助かっているか、頼りにしているか、言葉で表現するのが難しいほどです。皆さん本当に心があたたかく、それなのにとんでもない推進力を持ってサポートいただき、本当に感謝しています。皆さんが私たちに使ってくださる想いと時間をしっかりと施設に還元し、社会的養護施設の職員不足という課題を崩していきます。これからもどうぞよろしくお願いします。

チャイボラPJTに携わった
若手メンバーの声

K. I

コンサルタント

私が携わったのは、チャイボラが運営している施設採用担当者と求職者をマッチングするサイト刷新の、要件定義およびベンダー選定支援です。そのなかでの学びは、社会貢献活動をビジネスの文脈に織り込んでいくことの難しさでした。
ポータルサイト刷新のベンダー選定にあたって、チャイボラ側は「社会課題を解決する」という想いを持ったベンダーを希望されていました。チャイボラにフィットするベンダーを選定できるよう、チャイボラがベンダーに求める熱意や意欲を言語化して、営利目的で活動しているベンダー向けにビジネスの文脈に読み替えていくことはなかなかない経験でしたし、大きな学びでした。
また、チャイボラが主催するイベントに参加して、ポータルサイトのエンドユーザである社会的養護施設の職員の方々から直接お話を伺ったことも印象的でした。チャイボラの活動を通じて施設職員が増え、子どもたち一人ひとりが大切に育てられる世の中になってほしいというチャイボラに寄せる職員の方々の期待を伺ったことで、私自身のプロジェクトへの意欲が増していくことを感じました。
プロボノ活動では、主体性を持ってプロジェクトを推進することでスキル向上ができることはもちろん、それ以上にクライアントから直接感謝の言葉をいただく機会が多く、やりがいを実感できる場です。興味のある方にはぜひ経験して欲しいと思います。

I. K

コンサルタント

情報セキュリティ規定の策定支援部分で、本プロジェクトに参画しました。もともとセキュリティ領域への関心が強かったことや、タスクを実行するメンバーが私一人というプロジェクト体制であったことから、自分自身の裁量で推進できる点に期待感がありました。
これまで経験してきたプロジェクトでは、体制上、上位メンバーの指示のもとでタスクを推進する形であったため、意識的に「上位者を見て学ぶ」姿勢をとっていました。一方で、その進め方では「自分だったらどうするか」という観点にリアリティが持てず、プロジェクト全体や支援の在り方を十分に自分ごととして捉えきれていない部分もありました。
本プロジェクトでは、主体的にタスクを設計し、推進する立場を経験しました。プロジェクトを前に進めるために自ら考え、判断し、実行するというチャレンジを通じて、以降に携わるプロジェクトでは体制にかかわらず、全体感を持ってタスクを捉え、主体性と責任感を持って実務に向き合えるようになったと感じています。
また、豊田パートナーと直接、業務内容についてやり取りしたことも強く印象に残っています。情報セキュリティ規定の草案作成を進める中で、情報セキュリティの基本的な考え方や、専門家としてのクライアントとの向き合い方など、多くの学びを得ることができました。
NPO法人へのプロボノ支援ということで、普段支援させていただくクライアントとは組織の規模や性質が大きく異なる点も新鮮でした。クライアント、ひいては社会への貢献を特に身近に実感し、自身の成長にもつながった貴重な経験でした。

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