難しい社会課題にイノベーションと共創で臨む
~自動運転バス運用に多様な人材を活用した京都府の交通DX~

さまざまな生物が共存・繁栄するビオトープのように、「個の力」や「特性」を創造につなげながら、社会の繁栄と人々の幸せを実現する──。KPMGコンサルティングの事業の根底には、そんな世界観「Business Biotoping」があります。
京都府とともに進める地域交通DXも、その世界観考えを体現する取組みのひとつです。同プロジェクトでは、公共バスの自動運転化において、難民等の多様な人材を添乗員に起用するという異色のアイデアを採用しています。実際に、担い手の特性をどう組み合わせて新しい価値を生んでいるのかを、プロジェクトに携わる6人に聞きました。

KPMGコンサルティングメンバー

倉田

T. M

T. S

クライアント

塩崎 様

高柳 様

成田 様

Talk 01

難民を活用した公共バスの自動運転化プロジェクトの背景には、それぞれにどんな課題感がありましたか?

高柳 様

京都府商工労働観光部 様

地域の公共交通は、担い手不足や、人口減少による不採算化などで多くの路線で維持困難になると考えられ、京都府も例外ではありません。その対策の一手として次世代モビリティの導入も進めていますが、本格的な実装にはコスト等の問題を解決する必要があり、さまざまな可能性を探っています。

塩崎 様

DASH合同会社 様

地域住民のウェルビーイングのためには、あまねく方々が自力で移動できることがとても重要ですが、少子高齢化などによってこれまでの公共交通のモデルが立ち行かなくなりつつあります。

成田 様

NPO法人WELgee 様

私たちWELgeeでは、日本に逃れた難民が人生再建できるよう、“キャリア”を主軸に、企業・経済団体・行政など多様なステークホルダーと連携しながら、採用マッチングコーディネート等の事業を行っています。これまではどうしても関東中心とした都心の企業に偏りがちで、特に他地域の人手不足の課題を抱える地域の企業にはなかなかコミットできていませんでした。 

T. M

KPMGコンサルティングメンバー

コンサルティング業界においても、クライアントの事業環境の複雑化・不確実化や、AI技術の進歩などによって変革が求められています。そのなかにあって、より難しいこと・答えのないことに向き合うことが、コンサルタントの存在意義の大きなひとつになっていると実感しています。
自動運転に関してはまだ普及期の少し手前の段階で、本格的な普及に向けては、たとえば新しい雇用形態や教育機会の創出といった副次効果も含めた社会のメリットをきちんと可視化する必要があると感じていました。

倉田

KPMGコンサルティングメンバー

日本の自動運転技術は、高い水準にあります。一方で、コストや社会的受容性などの問題から、普及においてはアメリカや中国に先行されています。
その問題とは別に、私はかねてより難民の自立の難しさといった課題を、ビジネスの仕組を使って解決したいと考えていました。正直なところ、その両方の課題を組み合わせて解決を促す発想はありませんでしたが、私がWELgeeに協力いただいて開催した難民の就労支援に関する社内ワークショップをきっかけにT. Mさんがそれらを組み合わせた取組みをみごとに発想してくれて、このプロジェクトが始まりました。

T. S

KPMGコンサルティングメンバー

私は本プロジェクトにおける自動運転の実証運行のところから参加しました。これまで、他の地域での交通DXに携わったことはありましたが、担い手として難民の協力をえるのは初めてだったので、どんな感じになるのだろうと期待と不安が入り混じった気持ちで臨みました。

T. M

KPMGコンサルティングメンバー

なお今回のプロジェクトのあらましをご説明すると、KPMGコンサルティングでは2021年から京都府のスマートシティ構想にご一緒させていただき、2023年から始まった当プロジェクトでは、けいはんな学研都市(※)における公共バスの自動運転化に向け、ビジネスモデルの構築とその実装に携わらせていただいています。
本プロジェクトでは、交通事業者や難民の方をはじめ多様なステークホルダーを招いてのワークショップを4回行った後、2024年末に京都府京田辺市において、一般のお客さまにも乗車いただいての自動運転EVバスの実証運行を行いました。その後、さらなる検証や調整を重ね、2027年度中の実用化を目指しています。
※けいはんな学研都市:京都・大阪・奈良の3府県にまたがる文化学術研究地区
Talk 02

難しい社会課題を解決するにあたって、みなさんはどんな役割を担っていますか?

T. M

KPMGコンサルティングメンバー

まずプロジェクトの立役者となってきたのが塩崎さんです。京都府の職員時代に、スマートシティ構想における自動運転化の構想を立ち上げ、さらには地域交通の再構築と、それと連動したまちづくりの視点を採り入れてくださいました。その後塩崎さんは独立され、地域創生コンサルタントとして、引き続きプロジェクトに携わっていただいています。
高柳さんは京都府の職員として塩崎さんの役割を、フットワークの軽さも含めて全面的に引き継いでくださり、縦横無尽に動かれています。また、地域のリアルな実情を吸い上げたり、自治体同士の連携を図ったりと、行政だからこその役割をまっとうしてくださっています。
そして成田さんが所属するWELgeeには、難民の方のコーディネートや調整とあわせ、難民雇用に関する専門的な知見と視点をプロジェクトにもたらしていただいています。

塩崎 様

DASH合同会社 様

倉田さん・T. Mさん・T. SさんをはじめKPMGコンサルティングのみなさまには、プロジェクトにさまざまな「選択肢」をもたせていただいています。たとえば、同じ自動運転でも、バス、鉄道、LRT(次世代型の路面電車システム)などさまざまな形態があり、運営面でも、一般の乗客の利用だけでなく、たとえば福祉施設や病院、幼稚園や自動車教習所の送迎バスと相乗りといった多様なライドシェアの方法を教えていただきました。
また、他の地域のやり方をそのままスライドするのではなく、地域の事情や特性をふまえて最適解を一緒に探そうとしていただいています。

高柳 様

京都府商工労働観光部 様

私にとって塩崎さんは、今後の地域創生に不可欠といわれる官民連携をまさしく実践する存在で、そんな方が同じ職場で横にいてくれたことで自分の進む方向性を見出すことができました。
一方KPMGコンサルティングは、前例のない取組みを受け入れにくい体質の行政に対し、いろいろな先進事例を提示してくださり、それが推進力となっています。私が自組織に説明を行う際にも、KPMGコンサルティングが作成した資料を活用することで、グッと伝わりやすくなりました。

成田 様

NPO法人WELgee 様

今回、難民人材は自動運転バスに添乗し、停車駅や安全喚起などのアナウンスを行う役割を担っていますが、担当した方は日本人だけの現場の経験がほとんどありませんでした。だからこそ、KPMGコンサルティングメンバーの英語力の高さが、オペレーションの習得においても、心理的な安心感の点でもありがたいものでした。
Talk 03

プロジェクトを進めるなかでの、印象的なエピソードを教えてください

成田 様

NPO法人WELgee 様

実証運行には、日本語がまだ片言しか話せないスーダン出身の難民背景をもつ女性が参加しました。最初は「なじめなかったらどうしよう…」と不安そうでしたが、彼女自身と周囲の方々の双方がわかり合おうと丁寧にやりとりしたり、お客さまに挨拶をして挨拶を返してもらったりといった小さなかかわりが自信となり、日に日に笑顔になっていきました。最終的に、挨拶のテンションも目に見えて明るくなって。
日本語力についても、朝早めに出かけてカフェで練習したり、終業後に居残りで勉強したりするなど努力を重ね、実証の数日間で急速に伸びました。彼女が社会に溶け込んでいこうとしているのを目の当たりにして、私としても温かい気持ちと、この活動の意義を改めて感じる時間でした。

T. S

KPMGコンサルティングメンバー

今回の実証運行は、自動運転の技術面とあわせて、難民が添乗員を担うことに対する受容性の検証も兼ねていました。いざ運行を始めてみると、地域の方々から期待の声や前向きな意見を本当に多くいただき、アンケート調査でも肯定的な意見がほとんどでした。今後実用化させるにあたっては、調整や対策が必要になることもあるかもしれませんが、現状での受容性が非常に高かったことが印象に残っています。

T. M

KPMGコンサルティングメンバー

クライアントである京都府とは、事業を担う交通事業者や運行の場となる京都府京田辺市へ一緒に通ったり、国家プロジェクトとして認定いただくに際して国土交通省にも行ったりと、二人三脚で進めてきました。結果、収益をきちんと出すことのできる事業モデルともなりました。
コンサルティング会社といえば、アドバイザリーを行って対価をいただくイメージがあるかもしれませんが、当プロジェクトでは熱くて泥臭い行動をともに積み重ねることで、今に至っています。したがって京都府は、クライアントでありつつ共同パートナーのような感覚があり、多くのステークホルダーも巻き込みながら一体となって前に進んでいる感じが本当にコンサルタント冥利に尽きるなと感じます。
Talk 04

難しい課題を解決するにあたって、カギになるものとは?

塩崎 様

DASH合同会社 様

最初は京都府のなかで私が細々とやっていたものを、KPMGコンサルティングが絵を描き、国から支援を取り付けてくれました。さらには地元の自治体や地域住民にもその方向性に賛同してくださる方々がいらっしゃり、一緒にやろうと動き出してくださった。そして、高柳さんがその動きを私から引き継ぎ、組織としての取組みに変えてくれました。それぞれの役割がぴたっと合い、新しい視点も採り入れながら推進力高く動いてきたことで、形になっているのかなと感じます。

倉田

KPMGコンサルティングメンバー

T. Mさんもおっしゃるように、なぜコンサルティング会社が社会創生に携わるかといえば、やはり答えがなくて難しいからではないでしょうか。最適解がすぐには見つからないからこそ、そもそも何に対してどう答えを出すかから捉え直す必要があるし、進めながら見つけていくといった実行力とフットワークの軽さも求められる。
そう考えると社会創生には、とにかく形にしてみようという「勢い」も、非常に重要だと感じます。

高柳 様

京都府商工労働観光部 様

まったくの同感です。そして、勢いをつけるには「可能性に目を向けること」が大切だなと。やはり課題ばかりを見ると、「前例がない」とか「失敗したらどうしよう」と脚が止まってしまいやすいです。だからこそ、可能性という言葉に置き換えて、勢いをつけていくことが必要だなと。

T. S

KPMGコンサルティングメンバー

今回、通常の民間企業案件と比べてとくに難しいと感じたのが、交通事業者、京都府、地域住民、NPO法人と多くの立場の方々がかかわり、そのすべてがベネフィットを得られるように取り図る必要があったことです。そこが、地域創生の難しさ・高度さだなと。
その壁を越えるには、机上で数字を弾くだけではなく、それぞれの目線に立ち、解像度を高めて考える必要があります。それには、実際に地域や現場に足を運び、生の声を聞いたり、そこでやりとりされる価値を体感したりすることが重要になる。そうしたことを実直にやりながら、絵に描いた餅にならないよう魂を入れていくことこそが、人間の役割であると感じます。

T. M

KPMGコンサルティングメンバー

自分たちだけが得をすればいいと考えるのではなく、社会のために自分たちでなんとかしなくてはいけないんだという覚悟をもった方々が集まり、一緒に「共創」していく。それが実現できていることが、当プロジェクトの何よりもの強さだと感じます。
Talk 05

今回の取組みは、社会にどんな価値をもたらすと思いますか?

成田 様

NPO法人WELgee 様

難民背景のある方々は、日本人とほとんど触れ合わない生活を送る人が少なくありません。友達もおらず、日本人に話しかけようにも驚かせてしまいそうではばかられてしまう、という話もよく聞きます。そんななかで、自動運転バスの添乗員としてさまざまな日本人と接しながらコミュニケーションのPDCAを回せることは、大きな価値となります。一方で日本人にとっても、彼ら・彼女らと日常で接することで、難民という言葉の裏に、私たちと同じ、一人ひとりの人がいること、こんなふうにがんばっている方もいるということがわかり、難民への偏見や恐れを払拭する貴重な機会になると思います。

高柳 様

京都府商工労働観光部 様

自治体としても、人手が不足する地域での人材確保はもちろん、社会的マイノリティが活躍できる場を作ることで、誰も取り残さないまちづくりを体現できます。そうした積み重ねが、魅力的な街、生きやすい街、あるいは戻ってきたい街をつくることにつながっていきます。

成田 様

NPO法人WELgee 様

DE&Iを体現することで、かかわる企業や団体のブランディングにも寄与できるのではないでしょうか。

塩崎 様

DASH合同会社 様

いま多くの地域で人がどんどん減り、自分たちの生活の土台を維持するにはどうすればいいかを考えなければいけない時代がきています。たとえば公共バスを維持するために、今後はみんなで順番に運転手を務めようとか、持ち回りでバス停の掃除をしていこうなどです。その点で今回のプロジェクトは、そうしたことを考えるいいきっかけになり得るのではないでしょうか。自動運転バスに乗ってただ楽しいではなく、なぜ今これが必要なのか、もっとまちづくりにかかわっていかなければといったことを、多くの人に考えていただく契機になるのかなと。

T. M

KPMGコンサルティングメンバー

けいはんな学研都市で、こうして形にすること自体が、大きな価値ではないでしょうか。今は自動運転に取り組んでいますが、他のテーマが出てきたときにも今回の経験を活かしながら、絵を描き、巻き込み、形作っていくことを他の地域より圧倒的に早く行えると思います。

T. S

KPMGコンサルティングメンバー

答えのない問題に向き合うことがコンサルタントの存在意義であるとの話が出ましたが、実際にそこに興味をもつ若者も多く、先日入社した複数のメンバーも、社会課題の解決に携わりたいという明確な意思をもっていました。だからこそ今回のような事例を世のなかに発信することで、そうした意思のある人材を、より多く迎え入れられます。そこも重要な価値で、今後そうした人材が増え、日本全体により多くの成功事例が広がることに期待しています。
Talk 06

今後、社会創生の取組みを、どう発展させていきたいですか?

高柳 様

京都府商工労働観光部 様

あらためてこうした社会創生では、目線がそろっていて、一緒に手を動かして価値観を共有できる共創相手がとても大切です。よりざっくばらんにいえば、気の合う仲間ですよね。だからこそ自治体としても、こうしたプロジェクトに職員がデモ的に参加したりしながら、人材育成にも注力していければなと思います。

T. M

KPMGコンサルティングメンバー

まさに、これまでご支援してきた地域創生の取組みを振り返ると、行政にパワフルな推進役がいることがプロジェクト成功の必須条件であると感じます。民間と行政の両側から人材育成に注力し、そうした人材を各地に広げていくことで、日本全体の創生につなげたいです。

成田 様

NPO法人WELgee 様

本当にこうした共創プロジェクトでは、各プレーヤーの目線がそろわないと、なかなか求める課題解決にはつながりませんよね。だからこそプレーヤーたちの目線をそろえる役割も大切で、今回はそこをKPMGコンサルティングが担い、各プロフェッショナルを的確に組み込んでひとつの地図にまとめてくださいました。そこにコンサルティングの力を体感しましたし、今後もいろいろな展開でご一緒させていただきたいです。

高柳 様

京都府商工労働観光部 様

当プロジェクトの今後でいえば、自動運転や難民雇用についての合意形成を、街全体に広げていく必要があります。一方で、けいはんな学研都市である京都・大阪・奈良3つの地域それぞれに思いがあり、同じ方向を向いていただくことについては広域自治体ならではの難しさもあります。あらゆるアセットを活用しながら、前に進めていければなと。
たとえば自動運転のコストを減らすには、複数地域の運行を一箇所のコントロールセンターで制御したり、ロボットなど他のデジタルサービスと基盤を共有化したり、あるいは小さな自動運転車も選択肢に入れたりといった方法もあります。社会課題の解決と社会実装に重きを置くけいはんな学研都市だからこそ、そうした広域連携のモデルを突き詰めていけたらいいですね。

倉田

KPMGコンサルティングメンバー

うまくいくかわからないから、すぐに儲からないからと断念するのではなく、自動運転も外国人の受け入れも今後必ず向き合う必要があるイシューだからこそ、みんなでチャレンジしていく。それを、“西のつくば”といわれるけいはんな学研都市で成功させることのインパクトは大きく、その領域のシンボルともなるでしょう。
私たちの世界観である「Business Biotoping」には、「当たり前を疑い、新たな価値観を社会に問い続ける」や「繁栄を独占せず、社会に共有する」といった内容があります。一見きれいごとにも見えるかもしれませんが、だからこそそこに本気で取り組む地域や会社があることを、プロジェクトを通じて発信していきたいです。

塩崎 様

DASH合同会社 様

地域が持続していくには、いかに補助金をもらうかや、いかに自身のビジネスに乗せていくかではなく、地域と一緒に考えながら新しい価値を生み出していくことが重要です。地域交通でいえば、現状の路線をただ維持するのではなく、たとえば鉄道に代わる路線を設け、現在に即しつつ、新しい街のつながりや経済圏をつくるといった「交通の再構築」も必要になります。難民も含めて、それを地域のみんなでやっていく。
その点でけいはんな学研都市のポテンシャルは高く、成功モデルを日本に、ひいては世界に広げていくことも充分可能と考えています。いうなれば、世界人類の幸福のために課題と向き合うことが、けいはんな学研都市の使命でもあります。どんな難しい課題も受け止めて、未来づくりをしていく。ぜひそれを、KPMGコンサルティングおよびみなさんと進めていきたいです。

※記事の記載内容は2025年8月時点のものとなります。

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