「市役所の未来を描く」—自治体職員と共創した前例なき改革

地方自治体の庁舎建て替えは、単なる建物の更新ではありません。それは市民サービスのあり方を根本から見直し、未来の姿を描く絶好の機会です。KPMGコンサルティングのガバメント・パブリックセクターが中心となって進めた本プロジェクトでは、人口約17万人の基礎自治体の新庁舎建設において、従来の「建物ありき」の発想を覆し、職員の想いと市民の視点を中心に据えた革新的なアプローチを実践しました。本記事では、多様なバックグラウンドを持つコンサルタントたちが、どのように職員の発想を解き放ち、テクノロジーと人間らしさが融合した新しい窓口サービスを創造していったのか、その現場の生の声をお届けします。

KPMGコンサルティングメンバー

K. S

H. O

A. Y

Talk 01

今回のプロジェクトについて教えてください

K. S

KPMGコンサルティングメンバー

とある市役所が新庁舎へ移転するにあたり、単に建物を新しくするだけでなく、市民との接点である窓口を根本から見直したいというご依頼でした。目先だけではなく将来を見据えて「市役所のあるべき姿とは」という点を考えていくプロジェクトで、全国約1,700の自治体の中でも珍しい取組みでした。
従来は建物という「箱」ができてから、その中でどう業務を行うかを考えるという流れが主流でした。しかし今回は、まず理想の窓口業務を考え、それが叶う建物を設計したい、というクライアントの思いがありました。とは言え設計には物理的な制約はあるので、建物の基本設計というハードと窓口業務というソフトを並行して検討し、相互にフィードバックしながら進めるというプロジェクトでした。

A. Y

KPMGコンサルティングメンバー

地方自治体からのこういった依頼は、まだまだ珍しいですが相談件数は増えていますし、今後も増えていくと思います。変化の背景には、過去の反省がありそうです。「新しい建物を作ったけれど使われなかった」「新しいだけで、本質的な業務改善になっていない」などの例が全国にある。今までは建物の設計は設計事務所や建設会社に任せるという考え方が主流でしたが、実際に使う市民や職員の声を設計段階から取り入れる必要性が認識されるようになってきました。
さらに、サービスデザインという新しい概念が出てきて、これは行政にはまだ十分に浸透していない考え方だったりするので、外部の専門家の知見を活用する機運が高まってきていると感じます。同市の場合、市長が先頭に立って改革を進めているという背景も素晴らしい点だと感じました。「ワークショップをして意見を出し合いたい」というのも同市からの要望で、どういう内容のワークショップにするかが我々の力の見せ所、という気持ちで臨みました。

H. O

KPMGコンサルティングメンバー

本プロジェクトで、私たちKPMGコンサルティングに課せられた使命は大きく2つ。1つは窓口の課題を客観的に分析すること。もう1つは、職員の方々が発想を飛躍させて30年後、50年後の「あるべき姿」を描けるよう支援することでした。なぜ30年後、50年後という長期的な視点が必要かというと、新しい技術、例えば生成AIなどは今は最新のものですが、3〜5年後には陳腐化する可能性があるからなんですね。技術の進化を見据えて、今見えているものだけで判断してはいけない、と。
それに、今回は新庁舎で、箱がまだないプロジェクト。すでに箱があればその枠の中で考えればいいのですが、今回はゼロベースで発想を飛躍させて考える必要がありました。職員の皆さんにも、これまでの概念を壊し、飛躍してアイデアを出し合ってもらうためのワークショップなどを実施したのですが、日々の業務内容では、なかなか発想を飛躍する機会がないので考え方を変えなくてはいけないという課題がありました。さまざまなアプローチでそれを実現させるのが我々の使命でしたね。
Talk 02

ワークショップはどのような内容になったのでしょうか?

H. O

KPMGコンサルティングメンバー

特に重視したのは、市民の立場に立ってもらうこと、活発な意見交換をしてもらうこと、そしてプロトタイピング(アイデアやコンセプトを素早く形にして、試行・検証するための初期モデルを作ること)により具体的にイメージをできるようにすることです。
まず市民の立場に立つということですが、職員は、自身が務める市役所や業務内容には詳しくても、利用者の視点を持って課題を出すのは難しい部分もあります。そこで、実際に利用者である市民として窓口での手続きを体験してもらいました。すると、今まで見えていなかった課題が次々と浮かび上がってきました。例えば「隣の人の相談内容が聞こえてしまう」「ついたてがなく顔が見え、プライバシーが守られていない」など、これは利用者の立場だったら嫌だ、といった率直な感想が出てきました。業務をしている側にとっては日常で「当たり前」の光景ですが、実は市民にとっては課題であるという部分が可視化されました。ワークショップは主にA. Yさんに担当してもらいましたが、意見を出しやすくする仕掛けを作っていましたね。

A. Y

KPMGコンサルティングメンバー

例えば最初の自己紹介で参加者同士の共通点を見つけてチーム名を作ってもらいました。一見些細なことですが、互いの共通項を見つけることで、職員同士の距離が縮まり、チームとして協力していく雰囲気が生まれたと感じています。
そういう工夫もあってか、ワークショップは非常に活発な意見交換の場となりました。30代の職員を中心に実施したのですが、普段から横の繋がりはあるとはいえ、部署を超えて庁舎の未来について話をするというような機会はなかったので、このワークショップ自体が新鮮な体験だったようです。
Talk 03

生き生きと意見を交換している姿が目に浮かびます。プロトタイピングについても教えてください

H. O

KPMGコンサルティングメンバー

プロトタイピングは、地方自治体のコンサルティングに限らず非常に効果的な手法です。ツールなどは、資料でいくら「これを活用すると便利になる」と伝えても、何ができるのかイメージが湧かない場面もあり、実際に簡単な試作品を作って、触っていただくことを重視しました。
例えば、メッセージアプリを用いた申請システム。いくつかの地方自治体でも導入されているので、耳にしたことがある職員もいましたが、どういったものなのか、メリットもいまいち分からないという状態。だけど動く画面で体験すると「なるほど!」と理解が何段階も深まります。実際に動くものを触ってもらうことで、「こんなこともできるのか」という発見が生まれ、そこから「じゃあこれもできるんじゃないか」と発想が広がっていきました。

K. S

KPMGコンサルティングメンバー

特に印象的だったのは、窓口の集約化に関する議論です。新庁舎は複数階建てになる予定で、窓口を2階に集約すると、他の階にいる専門職員とのコミュニケーションが課題になります。そこで、モニターを通じて専門職員と市民をつなぐシステムのプロトタイプを作ってみると、予想以上に職員の方々から好反応をいただきました。「市民を待たせてしまう」というストレスは我々が想像していた以上に職員の皆さんは持っていたんですよね。

H. O

KPMGコンサルティングメンバー

少し違う視点だと、他の市役所の例、建て替えのコンセプト例を出すと意見が活発になりました。他の自治体が新しく取り入れていることは、受け入れやすかったりしますね。
Talk 04

職員の方々からはどのような意見が出てきたのでしょうか?

A. Y

KPMGコンサルティングメンバー

正直、私たちが一番驚いたのは、対面での対応を重視している方が多かった点です。今の潮流として「システムやAIに任せて業務効率化」があると思います。特に20代・30代の職員ならデジタルネイティブ世代ですから、幅広くテクノロジーで解決したいという人が多いのでは、と。でも、実際は全く違いました。
確かにロボットによる案内や、AIを活用した業務効率化のアイデアも出ました。しかし、それ以上に多かったのは「市民と直接対話することの重要性」を訴える声だったのです。

K. S

KPMGコンサルティングメンバー

デジタルネイティブだからこそ「AIに任せられることは任せて、その分、本当に人間にしかできない丁寧な対応に時間を使いたい」「デジタル化は手段であって、市民との対面コミュニケーションこそが私たちの使命」といった、本質的なことを重視されているのかもしれません。

H. O

KPMGコンサルティングメンバー

活発に意見を出し合うと、当然意見の対立というか、正反対の意見も出てきます。例えば、市の職員の多くは窓口から見えるところで仕事をしています。それに関して「市民の皆さんに見られながらだと、集中して業務に取り組みにくい」とか「機密情報も扱っているから見えないようにしたい」という意見が出た一方で「職員は市民の顔が見えるところで仕事をすべきだ」という意見が出ます。そういう場合は、我々が課題の論点を整理し納得感のある形で、皆さんの意見を集約していく作業をします。
異なる意見の橋渡しが、全て1つの解に導けるわけではありません。実際には建物の設計上の制約もありますし、「制約条件が明らかになったとき、改めてどちらを選べばいいかを議論しましょう」という形で落ち着くこともありました。重要なのは、さまざまな視点があることを皆が認識し、それを次のステップにつなげること。ですから、対立する意見も豊かな議論の種になりますし、異なる意見を出し合える場を作ることが我々の仕事でもありました。
最終的には、これらの意見を集約してスケッチ図という形にまとめてご提出したのですが、これは単なる絵ではなく、職員の想いや考えを具現化・可視化したものです。設計業者に「私たちはこういう窓口を作りたい」と分かりやすく伝えるためのツールになります。
Talk 05

今回のプロジェクトチームの構成と、それぞれの強みをどう活かしたのか教えてください

K. S

KPMGコンサルティングメンバー

本当に多様性に富んだ、良いチームでした。私はSIerおよび携帯通信キャリア出身で、デジタルに関する知見が武器。H. Oさんは元自治体職員で、行政の内側を知っている。A. Yさんは広告代理店出身で、ワークショップなどの企画立案に強みがある。だからこそできるKPMGならではの提案も多々あります。
この多様性は偶然ではないんです。採用においても応募者の方々が各々の現場で培ってきた知見や強みを重視し、多様な方々に仲間になっていただく。その前提の上で、プロジェクトごとにそれぞれの個の力を持ち寄って最適なチームを編成しています。

H. O

KPMGコンサルティングメンバー

私の場合、行政の内側にいた経験から職員の感覚や組織の論理がよく分かります。「前例がない」と言われたときの対処法や、決裁を通すためのポイントを踏まえて動けるのが私の強みかなと思っています。同時に、民間出身者のメンバーの視点が重要に感じています。行政の世界では当たり前のことが、民間から来た人には新鮮に映る。逆に民間では当たり前のことが、行政では革新的だったりする。その違いを尊重し合うことで、新しい価値や発想を生み出すことができました。

A. Y

KPMGコンサルティングメンバー

コンサルティングでは課題を突き詰めて原因を見つけ、打ち手を作るという論理的なアプローチが基本ですが、それだけだと選択肢が狭くなることがあるんですよね。広告代理店では「やりたいこと」を起点にし、そのアイデアをどのように仕上げれば課題解決につながるかを考える方法もありました。両方の良いところを掛け合わせることで、より創造的な解決策が生まれたと思います。

K. S

KPMGコンサルティングメンバー

多様性を重視している点です。例えばですが、今まで採用したことがないような経歴の方に対しては「それが武器になるだろう」という考え方をしている会社なんです。入社して苦労する人もいますが、多様な人材が集まることで強い組織になっていると感じています。

H. O

KPMGコンサルティングメンバー

たくさんありますが、いちばんは何事にも主体的に走る人が多いところです。

A. Y

KPMGコンサルティングメンバー

私は「仕事を通して社会を良くする」という考えがベースにあるところです。クライアントにする提案内容はKPMGが利益を得やすいからという視点はなく、クライアントのため、社会のため、という視点が強い。今回のプロジェクトでも「デジタル化で業務効率」という謳い文句を強め、パッケージになっている大規模なシステムを導入してもらえたらKPMGとしては利益率が高くなったかもしれません。しかし、そうではなく実際に現場の人の声を細かく拾い上げ、尊重しながら進められたのは弊社っぽくていいな、と感じています。
Talk 06

最後に、これから共に働きたい方はどんな方でしょうか

H. O

KPMGコンサルティングメンバー

私は元自治体職員として、行政や自治体を支援することで街づくりに貢献したいという想いでKPMGコンサルティングに入りました。
「自治体が起点になって街を作っている」という面は実際大きいですし、自治体や行政だから救える人がいます。私たちの提供するコンサルティングを通じてその自治体や行政が元気になり、職員がやりがいを持って働ける環境を作りたい、その結果として市民の生活も良くなっていく。そんな好循環を生み出していきたいと考えています。そういった、同じ想いの方がいたら一緒に働きたいですね。

A. Y

KPMGコンサルティングメンバー

私が一緒に働きたいのは、選択肢を狭めずに、広く考えられる人です。こだわりは持ちつつも「この方法しかない」と決めつけるのではなく、他の選択肢も想像できる人がコンサルタントとしても向いているのではないでしょうか。
あと、自分以外の存在をちゃんと考えられる人は素敵ですね。プロジェクトで関与するクライアントや、ステークホルダーは多様です。例外的なケースや、マニュアルに当てはまらないことも想像して、柔軟に対応策を考えられる人と一緒に働きたいと感じています。

K. S

KPMGコンサルティングメンバー

私はKPMGには入社5年目ですが、この仕事をしてきて最近特に大切だと感じているのは、クライアントと同じ高さの目線で、クライアントに寄り添って伴走するということです。コンサルタントは基本的にアドバイスをする立場になるため、上から目線で指導するというイメージを持っている方もいるかもしれませんし、実際そうなってしまう人もいますが、それではクライアントは動きません
今回のプロジェクトでは、良い形を体現できたと思っています。私たちが考える課題や答えを押し付けるのではなく、職員自身が考え、課題を発見できる場を作ることに注力しました。単に他の自治体の事例を紹介するだけでなく、実際に窓口体験をしてもらうことで、市民目線で考えることを促し、プロトタイピングによって創りながら考え、検討することを体感してもらい、自分たちで感想を言い合って合意を形成していく。こういう支援の形を作り上げられる人、クライアントと伴走できる人と働きたいですね。

※記事の記載内容は2025年8月時点のものとなります。

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