■KPMGでは、これからマネジャーを目指す若手にも、自身のリーダーシップや、その先にある実現したい社会を考えるきっかけとなるプログラムを実施しています
「リーダーシップ」と聞くと、企業の経営層や管理職が強烈なパーソナリティで従業員を引っ張っていく力を想像する方もいらっしゃるかと思いますが、KPMGでは、職位や立場に関わらず、全従業員が自身の役割と権限に応じた「影響力」を行使することが、社会に大きなインパクトを与え、組織を持続的に成長させていく大きな原動力となると考えています。
その価値観に基づき、KPMGコンサルティングでは、まだ持つ権限が小さい若手であってもリーダーシップを発揮することの意義、そして、そのリーダーシップの発揮によって自分が実現したい社会や組織とは何かを考え実践する機会を設けています。今回はその一例として、 「社会課題×リーダーシップ:地方創生イノベーションから学ぶリーダーシップ in 岩手県紫波町」と題した、これからマネジャーやチームリーダーを担う若手を対象とした研修プログラムを紹介します。
KPMGの価値観やそれに基づくリーダーシップのあり方を理解していただくとともに、皆さんにとってKPMGがキャリア開発・自己実現に資するステージとなるかを検討する上で1つの材料としていただければ幸いです。
以下、研修プログラムに参加したシニアコンサルタント、Y. Tによるレポートです。
■社会課題の解決×リーダーシップに触れる
「地方創生イノベーションから学ぶリーダーシップ in 岩手県紫波町」では、リーダーシップの発揮が社会の変革につながる実例に触れることを狙いとして実施されました。
岩手県紫波町で人口減少/地域過疎化に立ち向かう若きリーダーたちとの対話や現地視察を通じて、自分が実現したい社会や組織のありかた、その中で自分が発揮すべき影響力とは何かを考えるワークショップを行いました。
紫波町は岩手県のほぼ中央、盛岡市と花巻市の中間に位置し、南部杜氏発祥の地、酒のまちとして知られています。
2009年から始動したオガールプロジェクト※をはじめとした官民連携によるまちづくりで、若者人口も増加傾向に転じた他、町づくりに携わりたいと移住する人も増えていることで、全国の自治体から注目を集めています。
紫波町では、高齢化や若年層の流出が続く中、起爆剤として駅誘致を行いましたが、その際に、開発を約束して紫波町が購入した駅前の町有地も、行政の予算だけでは活用が進まず、長らく放置状態、と閉塞感が高まっていました。そこで、官民連携のまちづくりを積極的に行ったのです。
官民連携で町の中心部を作り直し、若者人口を増やすという成果だけでも目ざましいものですが、さらに特筆すべきは、今もなお、さまざまな立場の人たちが積極的に町を盛り上げ続けているという継続性です。私は、その立役者が、町役場の職員や一部の民間事業者だけではなく、NPOや町の個人事業者、町に魅力を感じた移住者まで多岐に渡ることに着目し、相互に発揮しあっている影響力が成功のキーファクターであろうという仮説をもって研修に臨みました。
※オガールプロジェクト:平成21年度から開始する岩手県紫波郡紫波町紫波中央駅前都市整備事業。地元の特色を活かした住みよいまちづくりを目指しながら、官民連携を通じた経済開発を行っている。なお、オガールは紫波中央駅前を紫波の未来を創造する出発駅とする決意、とフランス語で駅を意味する「Gare」(ガール)、また紫波の方言で「成長」を意味する「おがる」に由来しており、このエリアを出発点として、紫波が持続的に成長していく願いが込められている。
(参考)オガールプロジェクト(岩手県紫波町)は都市と農村の新しい結びつきを創造します。|オガール
■東北の厳しい寒さも忘れさせる熱い思いに触れる
12月の厳しい寒さの中実施した本研修では、まず、紫波町の官民連携の新しい事業、「はじまりの学校」プロジェクトを推進されている黒沢惟人(くろさわゆうと)様・須川翔太(すかわしょうた)様から話を伺いました。
黒沢様からこれまでの官民連携事業の話を伺いながら、紫波町の各所を巡って町の実態に触れていきました。印象的だったエピソードは、旧中心部に古くからある食堂の店主の方が、当初は町の再生の当事者意識が持てず傍観していたが、町役場からの粘り強い協力要請を受けてインターン生を受け入れたことをきっかけに、特産品である酒粕を使った新しい料理を考案して町を盛り上げようと自主的に取り組むようになったと話されていたことです。他にも、地元のサイダリーで、サウナが隣接した店舗づくりを行うことで地域にとって新たな憩いの場を創り上げたお話を伺うなど、自ら町を盛り上げるために活動されている方々と多く触れ、私自身もエネルギーを頂きました。そうしたエピソードが生まれ続けているのは、黒沢様や須川様が、住民が魅力を感じるビジョンを熱意を持って語り続け、さらには自分たちも行動をし続けるという、リーダーシップに満ちた行動の積み重ねがあったからこそだと実感しました。
「はじまりの学校プロジェクト」については、プロジェクトの拠点であるはじまりの学校(旧水分小学校の空き校舎)で取組みの経緯や今後についてお話を伺いました。紫波町では“酒のまち紫波推進ビジョン“を掲げ、100年後に100の醸造関連事業者を生み出すことを目標に掲げ、「酒と共にある暮らしを大人も子どもも愉しむまちをつくる」ことを目指されています。その中で、はじまりの学校プロジェクトでは、醸造・販売・体験の3つの事業を展開し、飲み手も造り手も巻き込んで新たな酒文化を生み出すための取り組みが進められていますが、そうしたプロジェクト固有のビジョンのみならず、皆さんが個々に持ち続けている実現したい社会の姿やそこにかける熱い思いも言葉にされていました。
「そもそも若者人口が少なく、さらには震災など困難が続く岩手で、前向きな飲み会がしたい」
「ただ地元だから、ではなく、紫波町がいいところだと本心から言えるようにしたい」
「オガールは上の世代の人たちがリードしてくれたが、次は自分たちの番だ」
紫波町が伝統的に持つ文化を尊重しながらも、紫波町やその一員として自分たち持つビジョンの実現に向けて、町民はじめ県外の方を巻き込みながら、紫波町をより一層楽しく魅力ある町にしたいという心の在り方と姿勢、そして何よりその姿勢に基づいた行動をし続けていることに感銘を受けました。
■「過去に居着かず、現在に居合わせる」行動が大きな影響力を生む
研修プログラムを経て、私は紫波町で出会った方々の以下2つの行動が、たくさんの人を揺り動かす大きな影響力の発揮に繋がり、社会課題の解決を実現していると考えました。
- 過去に居着かない行動:オガールプロジェクトやはじまりの学校プロジェクトなど個別具体的な施策の成功にとどまらず、その先の発展を見据え、町をより良くしたいという思いを発信し続けていること。
- 現在に居合わせる行動:紫波町の町民、県外から移住する人、紫波町に根付くお酒の文化、そういった紫波町のあらゆる存在を調和させ周りを巻き込んでいること。
紫波町の取り組みおいて特筆すべきことは、役場や一部民間企業だけが行動しているのではなく、さまざまな立場の方それぞれが行動し、継続的に成果を出し続けていることだと思います。組織の上位者や役職がある人だけがリーダーシップを発揮するのではなく、関わる人すべてがリーダーシップを発揮し、お互いに良い影響を与えあっていることが大きな成果を生む要因になると実感しました。
紫波町の過去の取り組みから蓄積された専門的なアプローチや実行のノウハウといったテクニカルな要素も成功の要因であることは間違いないですが、知識や経験だけでは語れないこととして、「過去に居着かず、現在に居合わせる」行動が、過去~現在~未来へと連鎖的に良い変化を生み続けていると考えます。
こうした対話や視察をインプットとして、プログラムの最後に、参加者それぞれがどんな社会を創っていきたいか、その社会を創るためにどんな仕事をしたいか、そしてどういったリーダーシップを発揮したいかをまとめ、お互いに共有をしました。以下、私がどんなことを感じ、考えたかをお伝えします。
私が実現したい社会は「人が自分の意思を堂々と伝えられる社会」です。
私は学生時代から決して目立つタイプではなく、口下手で、周りに流されることも多い人間でした。ただその一方で、自分なりの信念や誠実さも持っていたので、社会に出てからも周囲の反応を恐れ、時に自分の中でもどかしさや葛藤と戦うこともしばしばありました。ただ今回の研修に参加した仲間と過ごした中で、自分が思っていることを伝えても受け入れてくれるだろうという安心感が生まれ、その場にいられる喜びに対する感謝と自分の意思を伝えることができました。私の話を真剣に聞いてくださった方々の反応には本当に心が温かくなりました。
日々の業務においては「最高最愛のチーム」を創っていこうと考えています。それは、それぞれの人生の目的は違えども、その場においては同じ方向を向いて、個性を尊重して安心して仕事ができる場を指しています。今後、さまざまなバックグラウンド・価値観を持ったと色々な場面で仕事をする機会があると思いますが、出会う人や環境に居合わせて、調和させながら成果を生み出していくための行動を続けていきます。
早速、所属する部署で今回の学びを共有する場を設定し、それぞれが意思を伝え合いながら働くチームづくりを実践しています。
以上が、私が研修を通じて導き出した考えです。こうした内省を通じて日々の業務の意義も捉え直すことにつながり、自分だけではなく仲間のことも考えた上で、自分ができることは何かをより自発的に考えるようになったことで充実感も増したと感じています。末筆になりますが、紫波町の方々をはじめ、研修を企画いただいた事務局のメンバー、共に研修に参加した仲間との素敵な出会いに感謝いたします。
■皆さんもリーダーシップを磨いて、理想の社会を待つのではなく一緒に創っていきませんか
以上が、参加者のレポートでした。プログラムを通じて感じた紫波町の方々の熱量は文面だけでは伝えづらいところもありますが、リーダーシップの連鎖が起こす大きなエネルギーを少しは想像していただけたのではないかと思います。皆さんがキャリアを通じて実現したいことの原動力、あるいは実現したいことやありたい姿を検討するヒントになれば幸いです。
次回は被災地復興×リーダーシップをテーマに実施した、福島県南相馬市での研修についてご紹介します。
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