KPMGコンサルティングでは、組織におけるリーダーシップ開発に向け、グローバル共通のフレームワークを活用しながらさまざまな取り組みを行っています。今回はリーダーシップ開発に関する投稿の第2回目として、KPMG韓国と合同で開催した「Empowering Leadership Program」についてご紹介します。

 

■Empowering Leadership Programの意義とは?

突然ですが、皆さんは日本のジェンダーギャップ指数をご存知でしょうか。2024年のレポートでは、日本は146か国中118位に位置付けられています。では、隣国の韓国の指数についてはいかがでしょうか。答えは94位です。両国間で指数の違いはあるものの、日本・韓国ともに政治、経済分野でのジェンダーギャップが大きく、特に女性管理職比率の低さは両国ともに世界的低水準を示しているという共通点があります。日本では政府や企業が女性活躍推進に向けたプログラムを展開し、リーダー的ポジションに就く女性も増加しているものの、仕事と家庭の両立に関する文化的な期待や年功序列に基づく昇進・評価制度などによる女性の社会進出への障壁が依然として存在しています。韓国においても、伝統的な家父長制に基づく男女格差や男性優位の組織文化の影響により、女性のリーダーシップ発揮が阻害されていることが指摘されています。

 

日本や韓国のようにリーダー的ポジションに就く女性が相対的に少ない社会では、ロールモデルとなる女性像が限られ、また「リーダー=男性」というイメージが根強いことから、女性が自分らしいリーダー像を描くことが難しくなる恐れがあります。社会で活躍するごく一部の女性リーダーの姿を見て「私はあの人のようにはなれない」と自らの持つリーダーシップの可能性を諦めてしまうことは、でご紹介したKPMGの”Everyone a Leader”の考えとは一致しないものであり、非常にもったいないことではないでしょうか。人はだれしもアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)を持っているものですが、女性自身と社会の双方が持つ「リーダーはこうあるべき」、「こういう女性はリーダーらしくない」という先入観により、多様なリーダーシップが阻まれてしまうことは望ましくありません。

 

社会全体の考え方を変えることは一朝一夕には困難です。しかし、女性自身が自らのアンコンシャスバイアスを手放し自分なりのリーダー像を描けるようマインドを変えること、そして、社会的期待と自分らしさの間での葛藤を乗り越えるための一歩を踏み出すことはできるのではないか。さらには、マインドの変容を経た女性自身が自らの影響力を周囲に及ぼすことで、身近な仲間、組織ひいては社会全体の意識をも変容させていくことができるのではないか。こうした考えから立ち上がったのが、今回ご紹介するEmpowering Leadership Programです。前回の投稿では、リーダーシップの発揮には一人ひとりが問題意識を持ち、果たせる役割を考え自分なりの影響力を発揮すること、そして、互いに良い影響を与え受け取り合いながらより良い選択に向けて協働していくことが重要であるという考え方をご紹介しました。本プログラムは、同じKPMGの一員である日本と韓国が共通の課題として認識する女性のリーダーシップ開発に対して、課題解決を他人任せにするのではなく、当事者である自分たちの影響力をもって協働する取組みと位置付けることができます。また、KPMGジャパンがKPMGグローバルの一員としてアジアをリードし解決にあたるべきという企画者の思いのもと、KPMGジャパンによる企画・設計・運営およびKPMG韓国との交渉、ASPACチームとの連携を経て実現しており、国境を越えたリーダーシップ発揮があってこそのプログラムであるという意味でも意義深い一歩であると考えます。

 

■Empowering Leadership Programの概要

Empowering Leadership Programは、大寒波到来の25年1月、日本と韓国のKPMG女性社員10数名(日韓同数ずつ)が参加し、ソウルに所在するKPMG韓国のオフィスにて実施しました。各々所属、役職、業務も異なるため、まずはアイスブレイクとしてパーソナルバリュー(自身が重視する価値観)を示すキーワードを使って自己紹介を実施。日韓メンバーはお互い初対面ではありますが、自身の発表するキーワードに共感する仲間の存在を知り、徐々に互いを理解することができました。

 

 

プログラムは、自身の抱えるアンコンシャスバイアスの認識から始まり、アンコンシャスバイアスの強化につながる文化的要素の考察、KPMG韓国の女性リーダーによるパネルディスカッションを経て、集大成である「ビジョンニング」、すなわち、自身のバイアスを認識したうえでのありたい姿の言語化というセッションという構成で実施されました。

各セッションでは、日本と韓国のKPMGのジェンダー比率に関するデータや広告コンテンツなどの事例をもとに日韓メンバーでディスカッションを行い、日韓の社会が抱えるバイアスの共通点や相違点を明らかにしながら自分が置かれている状況を客観的に認識するというステップを踏みました。筆者である私も参加者の一人でしたが、このステップを通じ、日々の生活や業務で漠然と抱えていた違和感を実は他のメンバーも抱えていたこと、そしてその違和感の根底にはアンコンシャスバイアスによる思い込みや無意識の自己否定があると認識でき、非常に勇気づけられました。なぜなら、この気づきを得ることで、複合的な問題に対する解決策をより効果的に検討することが可能になったからです。

 

コンサルティング業務に限らずどのような物事の解決においてもまずは問いを正しく設定することが求められますが、その問いの設定時にバイアスがかかったままでいるのか、あるいはバイアスの影響を疑いながら、自身や周囲の行動、制度、組織における問題を捉えるのかでは大きな差があります。アンコンシャスバイアスという無意識のフィルタリングの存在を疑うことで、より公正な視点から問いの設定、その先の解決策の検討を行うことができるのではないでしょうか。また、バイアスの影響を認識できれば不必要に自分のパーソナリティを責めることもなくなります。無意識に自己否定し、ネガティブな思考に陥るのではなく、よりバランスの取れた考え方ができるようになるのです。1日のさまざまな内省・グループワークを通じて、参加者と共に改めてこの点を体感できたことは大きな学びでした。

 

プログラム最後には、ビジョンニング、すなわち自分がどのようなリーダーとなりたいかを表明します。
1日のワークを終え、改めてビジョンニングに向き合った際に私の中に芽生えたのは、「リーダーとはこうであるべき」という外発的な視点ではなく、「自分がどのようなリーダーであれば心地よく幸せでいられるか」という内発的な視点でした。どれほど周囲の期待に適うリーダー像を追求したとしても、それが自身にとって心地よい姿でなければどこかに歪みが生じ「サステナブルかつレジリエント」なリーダーシップにはつながりません。一方、自分自身が心地よく幸せと感じるリーダー像を追求できれば自然と周囲を思いやる余裕が生まれ、自己犠牲的な形ではなく、自分と周囲の人が共に豊かになれる選択をすることができるはずです。また、バイアスを認識しようと努めることにより、ジェンダーという枠に振り回されずしなやかに前進する強さを得ることもできると考えます。
「女性だから・男性だからではなく、すべては自身の選択である」。プログラムのパネルディスカッションに登壇されたKPMG韓国の女性パートナーがおっしゃっていた言葉ですが、本プログラムを通じて、バイアスを認識し、そのうえで責任をもって自分のありたい姿を選択することの重要性を理解することができました。

 

 

 

■Empowerされた参加者の次なるステップ

今回ご紹介した内容は、Empowering Leadership Programの一部にすぎません。参加者一人ひとりがマインドを転換しビジョンニングを行えたとしても、当然ながら参加者を取り巻く社会がすぐに変わるわけではなく、描いたリーダー像を実現するための本当のチャレンジはここからがスタートです。参加者は今後、定期的なアクションセッションやフォローアップを通じ、自分なりのリーダーシップ開発に継続的に取り組んでいくことになります。日常生活や業務ではさまざまな壁に直面し、成長の歩みも必ずしも直線的ではないかもしれません。しかし、今回のプログラムを通じて国境や業務の枠を超えて築かれた参加者同士のつながり、いわばサードプレイスが、その成長を支える大きな力になると感じています。このつながりがあることで、互いに悩みを共有し励まし合いながら、各自が掲げたビジョンを絶やすことなく成長し続けることができると考えます。

 

今回は、日韓の抱える社会課題であるジェンダーギャップの是正×リーダーシップ開発という視点での取組みをご紹介しました。本稿が、私たち自身が無意識に抱えているアンコンシャスバイアスの存在に目を向け、社会的期待ではなく真に自分が望むリーダーシップとは何かを考えるきっかけになれば幸いです。次回は、地方創生をキーワードに実施したリーダーシップ研修の様子をレポートします。

 

■出典:WEF_GGGR_2024.pdf