ケーススタディ ⑦ AIによる業務改革支援

Project 7:AI

KPMGコンサルティング

唯一無二の存在感を放つ異能集団、AIT。

KPMGのビジネスユニットの1つであるAIT(Advanced Innovative Technology)。ミッションはその名の通り、先進的なテクノロジーを駆使してクライアントの課題解決に貢献することです。
メンバーは社会課題や経営課題、ビジョン策定に寄り添うビジネスコンサルティング的側面はもちろん、AIの先端アルゴリズム研究、開発まで行う側面を持ち合わせています。クライアントの飛躍的な成長にコミットするAITならではのプロジェクトの向き合い方について語っていきます。

山本 直人

山本 直人

プリンシパル

ITベンチャーのエンジニアとしてキャリアをスタートさせ、外資総合コンサルティングファームを経て、2016年にKPMGコンサルティングに入社。AITの統括を務める。

T. K

T. K

シニアマネジャー

エンジニアとして大手ベンダーに勤務した後、2017年にKPMGコンサルティングに入社。製造業や金融業に対するAIを用いた業務改善プロジェクトなどに携わる。

T. Y

T. Y

コンサルタント

SIerで経験を積んだ後、エンジニアとしてのさらなる成長を求めて2019年にKPMGコンサルティングに入社。AIによる製造業の営業改善等のプロジェクトに携わる。

――本プロジェクトの概要についてご紹介ください。

山本 大手製造業がかかえていた製造現場や社内の情報共有についての課題をAIの自然言語処理を用いて解決したプロジェクトになります。クライアントは、「製造現場でトラブルが発生しても、特定の技術者しか対応できず、復旧が長引くことがある。結果的に生産計画が狂って、社会に大きな影響を与えかねない」と長期的に悩まれていました。

T. K その悩みの原因は、要するに“大企業病”にありました。組織が縦割りになっていて情報共有の仕組みがなく、そこにコミュニーション不足が加わり、業務の無駄や重複、意志決定の遅さをもたらしていました。そういった課題意識から、「情報共有の仕組みと、人のつながりの仕組みをつくれないか」というご相談をいただきました。

T. Y まずは、社内に蓄積されたデータを有効活用できるようにするところから着手しました。クライアントには、社員の皆さんが「週報」という形で、日々の業務内容や課題、アイデアや提案といった有用な情報を記録・提出しており、既に膨大な知見が蓄積されていました。しかし、そういった貴重な情報が非構造的なデータで保存されていたため、必要な情報を探し出し活用することができない状態だったのです。

T. K そこで、AIの自然言語処理を用いて週報に蓄積された情報を分析し、構造的なデータとして再形成し、その情報を検索・閲覧できるようにするアルゴリズムを一から開発しました。これによって、社内の情報共有やコミュニケーションの変革を支援しました。例えば、50人・100人と多くの部下を抱える上長などは、今までは誰が何をやっているのか把握が困難でしたが、この仕組みを構築したことによって、容易に情報にアクセスできるようになり、部下の業務内容などを把握できるようになりました。また、業務上の問題が発生した際には、蓄積されたデータの中から解決策を探し出せるようにもなり、何か新しいことを始める際にも、社内の専門家を探し出してコンタクトを取れるようにもなりました。情報と人とをつなぐAIによるレコメンドシステムにより、長期的に悩まれていたコミュニケーション課題の解決に寄与することができました。

T. Y こうした支援がきっかけで、クライアント社内でも自然言語処理への取組みが認知されるようになりました。当初は情報共有目的で出発したのですが、そこから設計開発部門をはじめさまざまな部門へと話が広がっていきました。特許を分析して競合をベンチマークしたり、社員のエンゲージメント、つまり社員が気持ちよく働けているか、会社に対してどんな意見を持っているかを分析したりと、第2第3フェーズとさまざまな部門での支援へと広がっていきました。

山本 コロナ禍というタイミングも影響したと思います。以前は人が集まって相談しながら仕事ができていましたが、コロナ禍によって働き方が変わったために、知見を有した人を物理的に一か所に集めた意志決定をすることができなくなりました。そこで、AIを使って人の知見や技術を有機的につなぐ仕組みを構築したのです。

T. Y コロナ禍以前からスタートして今も続いていますから、かなり長いプロジェクトになりましたね。

山本 このプロジェクトが始まったきっかけは、数年前、人工知能がテーマのセミナーで私が講師として登壇したことでした。「暗黙知を形式知化する」というテーマで講演したところ、内容に共感してくださり、後日ご連絡をいただいたのです。

T. K このようにセミナーをきっかけにして、新しいプロジェクトを受注することも多いですね。問題意識が明確で、私たちの提案したことに反応してくださった企業からのご相談です。こういったクライアントに恵まれていると思います。

山本 私も講演では、あえて賛否両論があるような刺激的な内容を話すようにしています。9割の聴衆がピンとこなくても、1割に刺されば良いと思っていますから。それぐらい尖っているのが、私たちAITの持ち味です。ですから、今回のように具体的なビジネスにつながるのはもちろんのこと、セミナーの内容に共感いただけただけでも嬉しく思います。

――まさにAITらしさが存分に発揮されたプロジェクトですね。

T. K クライアントからは、「こんなコンサルタント、見たことない」と言われました。なにしろ、AIそのものを自分たちで作る、いわば現地現物主義です。

山本 当時はAIブームで、AIさえ入れれば何でもできるようになると思われていた部分もありました。それに乗っかるようにSaaS型のAIツールを気軽に導入するケースが目立ち、結局はPoC(概念実証。コンセプトの効果を検証すること)地獄に陥ってしまった例も珍しくなかったと思います。AIなら何でもできると考えることから出発すると、道を誤ってしまうんです。

T. K AIに対する期待値も、各社さまざまでしたよね。

山本 私たちKPMGコンサルティングのAITは、クライアントに寄り添いながら、自らの手でクライアントのビジョンに最適化されたAIをオートクチュールとして作ってしまう。そのために世界中の論文にリーチしたり、オープンAIを改造して自分たちのモデルを作ろうと試みたりもする。自然言語処理や画像解析に関する特許も取得しており、そうしたことに対する驚きが、「こんなコンサルタント、見たことない」という反応に表れていると自負しています。

T. K プロジェクト受注前のプレゼンでは、「本当にそんなことができるのか」とクライアントも半信半疑でした。そこで、何度かワークショップを開催させていただき、実績やデモをお見せしました。技術ドリブンでのアプーロチです。その結果、ご納得いただき受注できました。

山本 今はコンサルティング業界は活況で、その背景には間違いなくDXブームがあり、コンサルタント職に就く方も増加し続けています。しかし、それもあと数年もすれば間違いなく収束していきます。その “アフターDX”の時代においても、AITは唯一無二の存在になりたいし、私たちも市場価値の高い人材でありたい。そのために最先端の面白い仕事に取組んでいたい。そんな想いが根底にあります。

T. K AITは、KPMGコンサルティングの中でも異色、異能の存在だと自負しています。グローバルカンファレンスでも存在感を放っており、GAFAのブースと私たちAITのブースが並んで出展されてこともあります。

T. Y 私たち3人は、元はエンジニアとしてキャリアをスタートし、現在はコンサルティングファームで技術力を武器とするコンサルタントとして働いています。自分たちのことを単なる“技術に詳しいコンサルタント”だとは考えていません。

T. K また、AIというカテゴリだけで収まっているわけでもありません。例えば、Mixed Reality(複合現実)技術を活用したデバイスがありますが、そのパートナーカンファレンスで我々はファイナリストとして残ったこともありました。AIとMixed Reality先端デバイスという、テクノロジーとテクノロジーの掛け合わせにも強みを持っています。さらにはエッジAIやメタバースなども取り込んでおり、これら最先端のテクノロジーを、クライアントがゲームチェンジするために活用しています。

山本 だからコンサルティングファームの中の、単なるデジタル担当という位置づけとは、まるで違うのです。

T. Y デジタル担当だったら、コンサルタントから降りてきた仕様に沿ってものづくりをすれば済みますが、クライアントの課題解決のフローを自ら構築し、その実行手段として自らAIを作っています。立ち位置がまったく異なります。

T. K 私は、新卒で入社した大手ITベンダーでエンジニアとして働いた後に、テクノロジーで世の中を変えたいと志してKPMGコンサルティングに入社しましたが、AITチームを知ったときは仰天しました。アプリケーションを作り込む技術、AIを開発する技術といった幅広いテクノロジーをわずか数人のメンバーで持っていて、しかもビジネスフローも考えられる。こんな集団は他にはないと思いました。クライアントの「こんなコンサルタント、見たことない」という言葉は、私の最初の正直な感想でもあったんです。

山本 クライアントの課題を見つけ、ソリューションを実現するために技術をどう活用するかという段階で、重要になってくるのが“妄想力”です。言い換えれば、技術をいかに社会課題や深い業務課題に結び付けていけるか、発想の飛躍が必要です。そのためには組織の壁を越え、KPMGグループのメンバーの力を借りることもしなくてはなりません。我々は技術力には自信を持っていますが、決して技術だけを見ているわけではないんです。コンセプトを見極め、あくまでその実現のために技術を活用しています。

T. Y そんな妄想力と技術力を持った集団が、私たちAITです。私もこのチームは、従来のエンジニアやコンサルタントの枠に収まらないと感じています。ビジネスフローの提案だけでなく、実際にものづくりまでやって、クライアントに貢献しているわけですから。ソリューションを構築する力と、それを実現する技術力を兼ね備えているのです。

――このプロジェクトは何度も契約が更新され、今も続いているそうですが、どういった点が評価されているのでしょうか。

山本 “大企業病”の解消につながる効果が生まれ、クライアント社内のDX担当部署のプレゼンスが高まりました。その結果、新たなソリューションを求める相談が各部署から寄せられるようになり、私たちのビジネスも広がっています。

T. K DX担当部署を起点に、クライアント社内の情報連携が進みましたね。もちろん情報や人の連携だけでは不十分で、そこから新たな価値が生まれるようになってこそ、真の貢献ができたと言えるでしょう。

山本 契約が何度も更新されたのは、クライアントが我々の取組みを高く評価してくれたからです。そこは誇らしいですね。

T. K ある時クライアントから、何度も契約更新をしていただいている理由を聞いたことがあります。その方によると、「技術に精通しており、最先端技術を使って課題解決してくれると思っていた。そこはもちろん期待通りだったが、我々が認知していなかった業務課題の解決までやってくれたのは、期待以上だった」とのことでした。クライアントに対して「どこを目指しますか」と問いかけ、そのための課題設定をして、最先端テクノロジーを駆使してものづくりをしていく。そんなふうに上流から下流まで一手に引き受けて、期待を遙かに上回る価値を提供できていることが、長期的なコンサルティングへとつながっていると思います。

山本 フルスタックエンジニアという言葉がありますよね。アプリからインフラまで、何だってできちゃうエンジニアです。一方で、“妄想”から始まってコンセプトをスケールし、最終的にエコシステムまで突き抜けてしまう、そのようなフルスタックもあると思うんですよね。この二軸を持っていれば、無敵のビジネスパーソンと言えるでしょう。そんな凄みのある人材を目指せるのがATIだと思います。

T. K もちろん人によって得手不得手はありますし、誰だって最初からフルスタックであるわけではありません。ここで経験を積むことで最終的にスーパーな存在を目指すことができる、そんな環境がAITにあることは確かです。

山本 現実的な話をすると、コンサルティング業務の報酬は、SIerの業務の報酬より高く、だから我々がSIerとは違う価値を求められるのは当然のことです。目の前に高い山があったら、SIerは「登るのはクライアント」と考えるかもしれないけれど、我々は迷わずにクライアントと一緒に登ります。

T. Y そうは言っても、私自身エンジニアとしてキャリアを積んできたので、コンサルタント的な領域に関しては、正直なところ、かなり苦労しました(笑)。

山本 確かにそういう側面はあるかもしれませんね。

T. K 私自身、データドリブンで考えることは得意ですが、“あるべき論”で業務を変えていく発想は、今でも得意だとは言えません。しかし苦手だからこそ、面白がれることが大切でしょう。チームとして互いに補い合いながら取組み、その中で経験を重ね成長していけます。

山本 ここでご紹介したようなAITの世界観に共感できる方には、ぜひ私たちと一緒に挑戦していただきたいですね。