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ケーススタディ ① eSports

Business Innovation ユニット長インタビュー ケーススタディ ① eSports ケーススタディ ② AIによる業務改革支援

eSportsを通じた新しいコンサルタント像の創造

eSportsとは「エレクトロニック・スポーツ」の略。インターネットなどを通じたコンピュータゲームにおける対戦を“スポーツ競技”としてとらえる際の呼称です。さまざまなビジネスの可能性を秘めるeSportsを日本における黎明期からチームを立ち上げプロジェクトを推進してきました。他に先駆けて意欲的に取組んだプロジェクトを紹介します。

eSportsとは「エレクトロニック・スポーツ」の略。インターネットなどを通じたコンピュータゲームにおける対戦を“スポーツ競技”としてとらえる際の呼称です。さまざまなビジネスの可能性を秘めるeSportsを日本における黎明期からチームを立ち上げプロジェクトを推進してきました。他に先駆けて意欲的に取組んだプロジェクトを紹介します。

eSportsとの出会いについて教えてください。

B. H
B. H

私が入社した直後のことですが、休日に上司からメールが飛んできたんです。何かと思ったら「今テレビでネットを使った対戦ゲームが放送されている。どうやらeSportsというものが盛り上がっているらしい」という内容でした。自宅でたまたま目にしたテレビ番組に興味を持たれて、チームのメンバー全員にメールを送ったようでした。

H. M
H. M

2017年の春頃ですね。

B. H
B. H

私、個人的にゲームが大好きなんです。中学生の頃から韓国のPCゲームで遊んでいて、日本で言うところのネットカフェで一晩中プレイするぐらい好きでした。だからこのメールが来たときは嬉しくて「eSports、知ってます!」と返信したんです。

A. O
A. O

1990年代後半にはインターネットの普及でゲームの裾野が拡大し、欧米ではプレイヤーのプロ化も始まりました。2000年頃にはeSportsという言葉も使われるようになっていたと思います。2011年には日本でも大会が開催されましたね。

B. H
B. H

韓国でもリーグ戦がテレビで放映されるほどの人気でした。そのようにゲームの市場が盛り上がっているのに、そして、日本はゲーム大国とされているのに、なぜか日本ではeSportsへの関心が驚くほど低かったので、どうしてだろうと疑問に思っていたんです。

A. O
A. O

私も小学生の頃からゲームが好きで、土日も親の目を盗んで遊んだものでした。内緒ですけど。

B. H
B. H

いや、別に内緒にしなくても(笑)。

H. M
H. M

私もゲームは大好きでした。確か5歳前後にゲームを始めたのが原体験だったと記憶しています。中学生になった頃には通信型の対戦ゲームの時代になって、友達と盛り上がりました。最近ではオンラインのPCゲームで知らない人と対戦することもあります。

B. H
B. H

実は社内にもゲームファンはたくさんいるんです。H. M さんとは以前、何かの機会にゲームの話で盛り上がったことがあったので、だったらeSportsのプロジェクトで一緒にやってみないか、と誘ったんです。

H. M
H. M

日本ではコンピュータゲームというと、競技ではなくて個人が趣味で楽しむもの、という認識ですよね。その意味では確かにeSportsの普及は遅れていたけれど、これだけ裾野が広いわけだから、絶対に発展するという確信はありました。

B. H
B. H

2018年になってから一気に日本国内でもeSportsへの関心が高まっています。メディアにもeSportsという言葉が盛んに流れるようになりましたね。

A. O
A. O

B.Hさんの上司の方がテレビを観てすぐに反応したその感度の高さも、それに対してすぐに返信したB.Hさんもすごいです。常にアンテナを張り巡らせておく姿勢は、私も見習いたいと思います。

そもそもなぜ先端技術に通じたプロフェッショナルチームがeSportsに取り組むのですか。

B. H
B. H

我々は最先端のテクノロジーを活用してビジネスの変革を支援しています。その際に重視しているのは、“人間ができる仕事”をテクノロジーで代替するのではなくて、“人間にはできない仕事”をテクノロジーで可能にすることです。つまり人間の能力を拡充するためにテクノロジーはあるわけです。その結果、同じ仕事を繰り返して自分を型にはめていくことから人間が解放され、一人ひとりの個を活かせる仕事に出会えるようになったら素晴らしいじゃないですか。そうした発想から、既存の産業には当てはまらない新しい産業を我々の手で創造するのも私たちのミッションだと考えています。eSportsもその1つという位置づけです。

A. O
A. O

それを、まず社内の人を巻き込んで始めたいということですね。

B. H
B. H

ノリで始めたかったんですね(笑)。経営戦略があって、市場分析があって、というパターンに縛られない形でやりたかった。ところが、社内の関心の高さは予想以上でした。eSportsって何? という1時間ほどの社内セミナーを開催したんですが、KPMGジャパン全体で50人ほど集まってくれました。各国のeSportsの現状を調べて報告したり、ディスカッションしたり。かなり盛り上がりました。

H. M
H. M

私もセミナーには参加しました。とても楽しくて熱いセミナーでしたね。

A. O
A. O

KPMGジャパンの広報誌『KPMG Insight』に記事が掲載されたのはその後でしたか?

B. H
B. H

KPMGジャパングループのあずさ監査法人は、以前からスポーツ関連組織を対象にスポーツアドバイザリーサービスを提供していたので、その知恵も借りつつ、当時の私の上司と共同執筆で記事をまとめました。2018年1月号に掲載されたので、執筆は前年の秋だったかな。

A. O
A. O

なるほど。そこは幅広い分野のプロフェッショナルを有する当社グループならではのシナジーですね。

B. H
B. H

ただ、eSportsを大きな産業へと育成しようと考えたとき、懸念されることが1つありました。ブラックマネーの存在です。万が一、賭け事などのブラックマネーが介入したら、eSportsが健全な産業として発展することは望むべくもないでしょう。従ってeSportsが市民権を得るには、子どもからお年寄りまで、誰もが気軽に楽しめる健全な産業でなければならないということを明確に示すことが必要だと思われました。そこで上司が、そうした考えを『KPMG Insight』に発表することにしたわけです。

H. M
H. M

反響はいかがでした?

B. H
B. H

KPMGジャパンがそんなことをやるのか、という驚きはあったようですね。我々コンサルタントは、普段はあくまでクライアントありきの存在ですよね。つまり裏方です。一方でeSportsについては、我々コンサルタントの力でマーケットそのものを創造しようと考えました。そのようなコンサルタントの新しい姿というものを伝えることができたと思います。その後もメディア向けの勉強会などを行いましたが、手応えは大きかったですね。

eSportsの寄付講座が開かれることになったのも話題を集めました。

B. H
B. H

KPMGコンサルティングの寄付講座「eSports論」ですね。大学と何か連携できないかと考えて、私の上司が知人である教授に相談を持ちかけたんです。そうしたら「おお、いいね、やろうやろう」と賛成いただいて。実に軽い調子で意気投合し、トントン拍子で話がまとまったんです。

A. O
A. O

誰もが参加できる気軽さがeSportsの魅力。いい意味での軽さは大切だと思います。

B. H
B. H

ところが、その後が大変でした。寄付講座を開くに際しては、当然のことながら会社としての承認が必要です。そこで当社の経営会議で承認をいただくようお願いしたんですが、これが紛糾しました。一方、大学側でも学内決済を取らなくてはなりません。そのデッドラインと経営会議の日程がちょうど重なってしまって、あれは本当に厳しかった。

H. M
H. M

時間的に間に合わないと。

B. H
B. H

そこで上司は話を持ちかけた教授に「申し訳ありません、取り下げます」と頭を下げたんですが、ところが「いや、やるなら今だ。やらなきゃダメだよ」とおっしゃってくれたんです。その言葉に強く背中を押されて、我々も経営陣を押し切ることができました。

H. M
H. M

初めてのことだから、経営陣もなかなかイメージを持てなかったのでは。

B. H
B. H

「君たちがゲーマーになるのか」と言われたり(笑)。KPMGコンサルティングとゲームというものをなかなか結びつけて考えてもらえなかったし、それが当社にとってどんなビジネスになるのかも見えなかったと思います。最終的には森俊哉・代表取締役会長(プロジェクト当時)が「確かにわかりづらい。だが、わからないからこそ、やるべきじゃないか」と断を下してくれました。

A. O
A. O

うれしい一言ですねえ。

B. H
B. H

森会長(プロジェクト当時)は「ただし、ブラックマネーなど、反社会的な要素が見えたら即刻中止すること」と念押しすることも忘れませんでした。とても重要なことですから、大学側にもそういうときはすぐに中止にしましょうと伝え、もちろん同意してくださいました。

プロジェクトのメンバーはどのように集めましたか。

B. H
B. H

ゲームが好き、ゲームのことがわかっているという人材を集めました。先ほど H. M さんをプロジェクトに誘ったときのことをお話しましたが、そんな感じで社内の仲間に声をかけていきました。

A. O
A. O

私は3月にプロジェクトにアサインされたんですが、最初はeSportsって面白そうだな、というぐらいの軽い気持ちでした。ところがちょっと調べてみたら、たとえば韓国には対戦の様子を流しっぱなしの放送局もあるほど盛り上がっていると知って驚き、これは絶対に日本でも盛り上がると確信しました。

B. H
B. H

コンサルタントの仕事というのは、クライアントの仕事にどれだけの時間を費やしたかという“チャージャビリティ”が評価の基準になっています。しかし、本当に大切なのは時間の長さではなくて、どれだけクライアントと深く共感でき、確かな信頼関係を築けるかではないかと思うんです。たとえ時間は短くてもすごく深い信頼関係が築ければよいのではないか、と。だからこのプロジェクトでも“共感できること”を重要な基準にメンバーを集めていきました。響き合えることが大切なんです。

H. M
H. M

共感の輪は、ずいぶん広がったようですね。

B. H
B. H

上司がブログで「eSportsやります」と書いたら、自分から「一緒にやりたい」と連絡してくれた仲間もいましたし、たまたまランチで同席した初対面のコンサルタントが実は熱狂的なゲームファンということがわかって、その場でプロジェクトに入ってくれたこともありました。プレイヤーとして準プロ級の実力を持つ社員が、「なぜ自分をアサインしないんだ」と連絡をくれましたし(笑)。私たちもこのプロジェクトをきっかけに社内のネットワークを広げることができました。

A. O
A. O

ワクワクしますね。

B. H
B. H

こんなに社内の共感を呼べるとは予想以上でした。

今後の展望について教えてください。

A. O
A. O

私が一番感じるのは、eSportsのポテンシャルの高さです。最初はゲーム業界だけの話かと思っていたんですが、とんでもない。たとえば内閣府の公式資料でも、2025年までに20ヵ所のスタジアム・アリーナの実現が掲げられたり、スポーツ産業を日本の基幹産業へと発展させることで地域経済の好循環システムを構築する試みが示されています。スタジアムができれば交通網が整備され、観客を呼び込むための旅行業も活性化されるでしょう。ゲーム業界という狭い話ではなく、無限の可能性を秘めていることがわかります。

B. H
B. H

ゲームのデータを分析し、プレイヤーにフィードバックするようなデータビジネスは、我々の出番です。データは健康産業にも流用できるでしょう。また、eSportsは仮想通貨とも親和性が高いので、その面でのオポチュニティも大きいでしょうね。

H. M
H. M

eSportsは2022年に中国・杭州で開催された「第19回アジア競技大会」で正式種目として採用されました。
国際的な競技大会でも採用されるよう、健全性を担保することが非常に重要になると思います。お年寄りや障がいを持つ方も障壁なく参加できる、ユニバーサル性も大切な要素ですね。

B. H
B. H

そんなふうにeSportsがフックとなって、幅広い領域で新しいビジネスが立ち上がっていく可能性があります。リアルスポーツと肩を並べるような存在になっていくことを期待しましょう。

A. O
A. O

日本でのeSportsはまだこれからと言えますから、先が見えない楽しさがありますね。これからどんな夢でも描くことができると思います。

B. H
B. H

上司が、ある学校で中学生向けに職業教育の特別授業を行ったとき、データサイエンティストをテーマにした回は満員の大盛況だったのに、コンサルタントをテーマにしたときは閑散としていたそうです。“コンサルタントという職業は中学生に人気がないんだねえ”と上司はショックを受けていました。

H. M
H. M

寂しい話ですね。

B. H
B. H

しかし、これからeSportsを核とした新しい産業を我々が創り出すことで、クライアントの経営課題を解決するだけではない、新しいコンサルタント像というものも創り出せると思うんです。それこそがAI時代におけるコンサルタントの社会貢献ではないでしょうか。日本の未来を切り開く若い世代が目指してくれるような、そんなコンサルタント像を創りたいですね。

最後に、どんな人材に仲間になって欲しいとお考えですか。

A. O
A. O

eSportsのプロジェクトに限らず、KPMGコンサルティングでの仕事の面白さは、“先が見えないところ”にあると思います。見えないからこそイメージする力が必要になるわけですが、言い換えればそれは“妄想する力”ということになるでしょう。前例のないこと、お手本のないことを妄想する力を持っている人ほど、当社で楽しむことができると思います。

H. M
H. M

そうですね、eSportsのプロジェクト含め、どう発展させていくか、未来の設計図を描くことが必要です。人を巻き込みつつ、推進していく力のある方に期待したいですね。

B. H
B. H

自分でプロジェクトを楽しみつつ、周囲の人も楽しませられるような方がいいですね。先が見えないからこそワクワクするし、多様な背景を持つ仲間と同じ未来を目指していくムーブメントを楽しめます。中国、オランダ、オーストラリアと、KPMGには世界中に同じようにムーブメントを楽しむ仲間がいますから、そうした交流を面白がれる方に力を発揮していただきたいですね。楽しみながら社会に新しい価値を提供して貢献しようという大きな志を持った方と、一緒に挑戦していきたいと思います。

※記事の記載内容は2018年9月時点のものとなります。