KPMGコンサルティングには「アルムナイ」という卒業生コミュニティがあります。同じ会社で働いた仲間と卒業後も末永くつながり続ける目的のもと、卒業生同士または在籍社員との交流を通じて親交を深めるほか、時には社外の頼もしいパートナーとして一緒に新規ビジネスに携わることもあります。
20代のうちに起業する目標を叶えるため、ビジネスの視野を広げる近道としてコンサルタントのキャリアを選び、会社を立ち上げたアルムナイの李さんに、卒業後のキャリアについて、さらに卒業後に実現したKCとのコラボレーションについてインタビューしました。
李 東瀛 (Li Dongying) - アルムナイ
代表取締役社長
大学卒業後、事業会社にてエンジニアとして経験を積んだ後、KPMGコンサルティングへ入社し、IT戦略策定や業務改善プロジェクトなどに従事。2018年に退職した後、医療情報プラットフォームの提供などを手掛けるArteryex社を設立。
学生時代から、事業を興したいと考え、大学時代から個人事業主として、町の接骨院を対象にHP制作から運用までを少額で請け負いながら、エンジニアのスキルを磨いてきました。親が実業家だったので、小さい頃から、当然のように自分も事業をやるものだと考えていましたし、何か自分で作り上げたものを世に残したいという想いもありました。
新卒では、入社した企業でエンジニアとして働いたのですが、エンジニア個人として年間1億円の売上を上げることはできたものの、自分に見えているビジネスの視野は狭く、それ以上のレバレッジを効かせることは難しいと感じるようになりました。もっと視野を拡げるために、まずは同じ会社内でより上流工程が経験できるようなコンサルティング部署へ異動したのですが、やはりプロジェクトチームの中でエンジニア的な役割を求められました。
そこで、IT戦略策定などに関われる機会があるKPMGコンサルティングにコンサルタントとして転職し、国際スポーツ大会開催に向けたICT戦略策定や業務改善のプロジェクトなどを担当しました。
コンサルタントとして、ベーシックスキルも一通り身に付き、仕事も余裕をもって捌けるようになってきた一方、さらに高い視座や広い視野を持つために、プロジェクト経験を積んでマネジャー職以上へ昇格していくキャリアは、私自身が設定した20代のうちに経営の知見を得るという目標への近道ではないと感じ始めました。そこで、コンサルタントを辞めて、以前よりずっと温めてきた起業に本腰を入れて取り組むことを決心して、2018年にArteryex株式会社を起業しました。
事業を興してみると、クライアントと向き合う際に、論理的思考力や課題解決能力などが必要な場面や、ピッチやプレゼンを行う際にわかりやすい説明資料を作るスキルが役に立つ場面が多くありました。コンサルタントとして、クライアントの経営層向けに資料を作成した経験がまさに活きたと感じます。また、事業会社とは異なり、コンサルタントとしてさまざまな業界を担当し、いち社員ではリーチしづらいシステム全体像などを把握できたことも、本当にいい経験になりました。
現在は、患者中心の医療データのプラットフォームの構築を目指しています。インターネットが当たり前になっている現代においては、大量に溜まったデータをいかに利活用できるかというのは、研究・ビジネスを問わず大事なことです。特に医療分野においては、患者自身が自分の医療データを見られないばかりか、一部無断で(匿名加工はされているけれども)使われていることを知らない状態も起きています。私は今後10年以内に、「自分のデータを自分で売る時代」が来ると信じており、医療データのプラットフォームはそれを実現するためのものという位置付けで考えています。たとえば、ある病気で治療した患者が同じ病気で困っている患者とつながることによって相談しあったり、データをお互いに公開したり、既往歴に応じて予防的にオプショナルな医療提案がなされたり、自分の肌にあった化粧品が提供されたりなど、患者(消費者)自身が自分の医療データを活用することで、結果的にデータ活用が促進され、日本、ゆくゆくは世界の医療研究を推し進めていくことができればと思っています。
Arteryex株式会社は大手製薬会社の子会社にもなりましたので、これからは今の事業をさらに大きくしていくとともに、あと2、3社は起業したいとも考えています。
まずは、何でもいいから目標を持つことが大事です。たとえば、「かっこいい車や家を手に入れたい」「50代でリタイアしたい」「自分の名前の付いた何かを世に出したい」など、何でもいいと思います。論理的思考といったビジネススキルの話もしましたが、最終的には、スキル以上に、何かを好きでやり遂げたいという気持ちが、キャリアなどで迷ったときに方向性を示してくれる羅針盤になると思っています。
起業においては、リスクを積極的に取りに行くことも重要になってきます。コンサルタントの皆さんは、さまざまな観点からリスクを検討することに慣れてしまっている部分もあるので、真逆なアプローチと言えるかもしれません。私の場合は、自分の意思を大切にしたいと思い、起業したのが26歳の時でした。トライ&エラーで、ダメだったとしても何とかなるという気持ちで全財産をつぎ込み、胃に穴が開きそうになったことも、資金が底をつきそうになったこともありました。リスクテイクする際にバランスを取ろうとすると、思い切って起業に踏み切れない部分もあります。市場規模などを見て今だったら勝てるか、という判断を最優先にしてやってきました。
日本では、ある程度年齢を重ね、人脈を築いてから起業する方がまだまだ多いと感じますが、これからは選択肢の1つとして、学生など若いうちから起業する方がもっともっと社会に増えたらいいなと思います。
KPMGコンサルティングには、「ありがとうを伝える。歩くを楽しむ」というコンセプトで導入された、“KPMG Walking Chain”という、ブロックチェーン技術を用いて独自開発したアプリがあります。このアプリは、KCを卒業しアルムナイとなった李さんとのコラボレーションから実現した取組みで、KPMGコンサルティングらしく、互いを称え合う組織風土の醸成と社員の健康推進に一役も二役も買っています。
社外パートナーとして、ともにビジネス第一線で活躍する同志として、李さんと卒業してからも長くつながり続ける仲間に、アルムナイ事務局がインタビューを行いました。
互いに称え合う組織風土の醸成と、健康増進の機能が1つになったブロックチェーンを活用したアプリ。
Thanks Point 送付機能と Walking 機能が備わっています。全社で貯まったポイント額に応じ寄付を実施するなど、CSR活動にも寄与するプラットフォームです。社員のエンゲージメント向上にも役立っています。
KPMGコンサルティングでは、自分自身の能力開発に加え、他者の優れたパフォーマンスを認め、他者に対してリスペクトをもって接することのできる人を、理想のプロフェッショナル像としています。日々の業務で助けてもらった感謝の気持ちや、仕事に向き合う姿勢などに対して、「ありがとう」を Thanks Point として送り合っています。Thanks Point を一定以上獲得した社員は、SHINERS(輝く人)として表彰されます。
リモートワークで働く社員も多い中、社員の健康づくりのために、デイリー/ウィークリーの目標歩数を達成すると、Walking Point を獲得できます。社員同士、歩数を競って対戦する仕組みもあり、日々の動機付けとすることでちょっとした行動変化を促しています。
2014年頃に、イーサリアムでICOが実現したのを見て、ブロックチェーンに興味を持ち、勉強を始めていました。KPMGコンサルティングには2016年に入社しましたが、退職する直前になって、Business Innovationユニットでブロックチェーンを使ったビジネスの検討をしていることを聞き、所属メンバーを紹介してもらいました。
社内向けのブロックチェーン開発研修を企画していたので、エンジニアとしての高い技術力に加え、ビジネス展開についても考えられる講師として、李さんが卒業された後に研修をお願いしました。基礎技術の理解から専門的なコーディング実習まで、技術面に一歩踏み込んだコアな研修でした。
当時、私は別のビジネスユニットに所属していたのですが、もともとブロックチェーンに興味があり、研修に参加したことがきっかけで異動を希望しました。
仮想通貨の取引額も急拡大するなか、安全性を脅かす事件が発生し、改めてブロックチェーンが注目されていた時でした。社内での関心も高く、延べ200人以上が参加して大盛況でした。研修後も引き続きブロックチェーンの実用化を検討しており、何かできないか、と李さんに相談しました。
KPMGコンサルティングを卒業後、医療情報を軸としたデジタルソリューションを提供する「Arteryex株式会社」を起ち上げ、従業員の健康推進に寄与するサービスとして、ブロックチェーン技術を活用したアプリ「LEAF」をリリースしていました。ブロックチェーンを組み込んだアプリがまだ日本にはなかった頃で、自社の技術力の高さをマーケットでアピールするために開発したプロダクトです。
そのプロダクトをベースにして、KPMG Walking Chainアプリのプロトタイプを開発しました。アプリは完成したものの、社内で積極的に活用されるようになるまでは簡単ではありませんでした。
そこで、トップオーナーシップのもとでスピード感をもって推進されていたLEAP(KPMGコンサルティング版働き方改革)にアラインさせ、社員同士がお互いに目に見える形で感謝の気持ちを伝えるための仕組みとして、別途検討されていたThanksポイントと組み合わせることにしました。
Thanksポイント機能をアプリに実装することとなったので、プロトタイプから仕様変更などをお願いすることになり、李さんを振り回してしまいましたね…。Thanksポイントの活用先をさまざまに検討するなかで、社内の関係部署との協議や、セキュリティ面での確認や手続きも多く、その度に李さんへの確認が発生しました。
PMOのY.Mさんはよく知っている間柄でしたし、KPMGコンサルティングのことも当然よくわかっていたので、コミュニケーションはとてもスムーズでした。実際に自分で事業を始めてみて、クライアントの意思決定プロセスや社内手続きの煩雑さなど、ビジネスサイドを学ぶいい機会にもなりました(笑)。KPMGコンサルティングとも、またさまざまな形でコラボレーションできたら楽しそうだなと思っています!
※記事の記載内容は、インタビュー取材時点のものとなります。