ケーススタディ ② eSports

Project 2:eSports

KPMGコンサルティング

eSportsを通じた新しいコンサルタント像の創造。

eSportsとは「エレクトロニック・スポーツ」の略。インターネット等を通じたコンピュータゲームにおける対戦を“スポーツ競技”としてとらえる際の呼称です。海外ではプロプレーヤー同士の戦いが数万人の観客を呼ぶ大規模スポーツイベントとして開催され、放映権の売買等が大きなビジネスになるほど。日本ではまだ黎明期にありますが、それだけにスポーツ産業として無限のポテンシャルを秘めていると言えます。
KPMGコンサルティングではこのeSportsについて、AIT(Advanced Innovative Technology)チームのメンバーを中心にプロジェクトを推進中。他に先駆けた意欲的な取り組みを行っています。

ヒョン バロ

ヒョン バロ

マネジャー/工学博士

韓国出身。大学院で航空宇宙学を学んだ後、韓国の自動車メーカーに入社。2016年に来日し、自動車の部品メーカーを経て2017年4月にKPMGコンサルティングに入社。「KPMGコンサルティングの社員の将来を読む目に感銘を受け、この人たちとぜひ一緒に仕事がしたいと思って入社しました」
 

森下 葉月

森下 葉月

コンサルタント

幼少期から海外で過ごす。数学科で統計学を学んだ後、ボストンキャリアフォーラムへの参加をきっかけに日本企業での就職を決心し、2015年9月、新卒でKPMGコンサルティングに入社。「グローバルプレゼンスの高いBig 4コンサルティング会社を志望。面接を通じて出会った方々に魅力を感じ、入社を決めました」

大澤 温

大澤 温

ビジネスアナリスト

大学では化学を専攻。SEを経て2017年9月にKPMGコンサルティングに入社。「テクノロジーもビジネスも、世界の最先端に触れられる環境に惹かれました。入社して驚いたのは風通しの良さ。気軽な立ち話から新しい発想が生まれる環境はエキサイティングで、楽しい毎日を送っています」
 

――eSportsとの出会いについて教えてください。

バロ 私が入社した直後のことですが、休日に上司からメールが飛んできたんです。何かと思ったら「今テレビでネットを使った対戦ゲームが放送されている。どうやらeSportsというものが盛り上がっているらしい」という内容でした。自宅でたまたま目にしたテレビ番組に興味を持たれて、AIT(Advanced Innovative Technology)チームのメンバー全員にメールを送ったようでした。

森下 2017年の春頃ですね。

バロ 私、個人的にゲームが大好きなんです。中学生の頃から韓国のPCゲームで遊んでいて、日本で言うところのネットカフェで一晩中プレイするぐらい好きでした。だからこのメールが来たときは嬉しくて「eSports、知ってます!」と返信したんです。

大澤 1990年代後半にはインターネットの普及でゲームの裾野が拡大し、欧米ではプレイヤーのプロ化も始まりました。2000年頃にはeSportsという言葉も使われるようになっていたと思います。2011年には「第1回eスポーツJAPAN CUP」も開催されましたね。

バロ 韓国でも「StarCraft®」というゲームが大流行し、リーグ戦がテレビで放映されるほどの人気でした。そんなふうにゲームの市場が盛り上がっているのに、そして、日本はゲーム大国とされているのに、なぜか日本ではeSportsへの関心が驚くほど低かったので、どうしてだろうと疑問に思っていたんです。

大澤 私も小学生の頃からゲームが好きで、土日も親の目を盗んで遊んだものでした。内緒ですけど。

バロ いや、別に内緒にしなくても(笑)。

森下 私もゲームは大好きでした。確か5歳前後だったと思いますが、ポケモンのゲームを始めたのが原体験だったと記憶しています。中学生になった頃には通信型の対戦ゲームの時代になって、友達と盛り上がりました。最近ではオンラインのPCゲームで知らない人と対戦することもあります。

バロ そんなふうに、実は社内にもゲームファンはたくさんいるんです。森下さんとは以前、何かの機会にゲームの話で盛り上がったことがあったので、だったらeSportsのプロジェクトで一緒にやってみないか、と誘ったんです。

森下 日本ではコンピュータゲームというと、競技ではなくて個人が趣味で楽しむもの、という認識ですよね。その意味では確かにeSportsの普及は遅れていたけれど、これだけ裾野が広いわけだから、絶対に発展するという確信はありました。

バロ 2018年3月にはJリーグがeSportsの大会を開催するなど、2018年になってから一気に国内でもeSportsへの関心が高まっています。メディアにもeSportsという言葉が盛んに流れるようになりましたね。

大澤 バロさんの上司の方がテレビを観てすぐに反応したその感度の高さも、それに対してすぐに返信したバロさんもすごいです。常にアンテナを張り巡らせておく姿勢は、私も見習いたいと思います。

――そもそもなぜ先端技術に通じたプロフェッショナル集団であるAITがeSportsに取り組むのですか。

バロ AITは最先端のテクノロジーを活用してビジネスの変革を支援しています。その際に重視しているのは、“人間ができる仕事”をテクノロジーで代替するのではなくて、“人間にはできない仕事”をテクノロジーで可能にすることです。つまり人間の能力を拡充するためにテクノロジーはあるわけです。その結果、同じ仕事を繰り返して自分を型にはめていくことから人間が解放され、一人ひとりの個を活かせる仕事に出会えるようになったら素晴らしいじゃないですか。そうした発想から、既存の産業には当てはまらない新しい産業を我々の手で創造するのもAITのミッションだと考えています。eSportsもその一つという位置づけです。

大澤 それを、まず社内の人を巻き込んで始めたいということですね。

バロ ノリで始めたかったんですね(笑)。経営戦略があって、市場分析があって、というパターンに縛られない形でやりたかった。ところが、社内の関心の高さは予想以上でした。eSportsって何? という1時間ほどの社内セミナーをAIT主催で開催したんですが、KPMGジャパン全体で50人ほど集まってくれました。各国のeSportsの現状を調べて報告したり、ディスカッションしたり。かなり盛り上がりました。

森下 私もセミナーには参加しました。とても楽しくて熱いセミナーでしたね。

大澤 KPMGジャパンの広報誌『KPMG Insight』に論文が掲載されたのはその後でしたか?

バロ KPMGジャパングループのあずさ監査法人は、以前からスポーツ関連組織を対象にスポーツアドバイザリーサービスを提供していたので、そのお知恵も借りつつ、当時の私の上司と共同執筆で論文をまとめました。2018年1月号に掲載されたので、執筆は前年の秋だったかな。

大澤 なるほど。そこは幅広い分野のプロフェッショナルを有する当社グループならではのシナジーですね。

バロ ただ、eSportsを大きな産業へと育成しようと考えたとき、懸念されることが一つありました。ブラックマネーの存在です。万が一、賭け事などのブラックマネーが介入したら、eSportsが健全な産業として発展することは望むべくもないでしょう。従ってeSportsが市民権を得るには、子どもからお年寄りまで、誰もが気軽に楽しめる健全な産業でなければならないということを明確に示すことが必要だと思われました。そこで上司が、そうした考えを『KPMG Insight』に発表することにしたわけです。

森下 反響はいかがでした?

バロ KPMGジャパンがそんなことをやるのか、という驚きはあったようですね。我々コンサルタントは、普段はあくまでクライアントありきの存在ですよね。つまり裏方です。一方でeSportsについては、我々コンサルタントの力でマーケットそのものを創造しようと考えました。そのようなコンサルタントの新しい姿というものを伝えることができたと思います。その後もメディア向けの勉強会などを行いましたが、手応えは大きかったですね。

――慶應義塾大学藤沢キャンパス(SFC)でeSportsの講座が開かれることになったのも話題を集めました。

バロ KPMGコンサルティングの寄付講座「eSports論」ですね。大学と何か連携できないかと考えて、私の上司が慶應義塾大学総合政策学部の古谷知之教授に相談を持ちかけたんです。そうしたら古谷先生は「おお、いいね、やろうやろう」と。実に軽い調子で意気投合し、トントン拍子で話がまとまったんです。

大澤 誰もが参加できる気軽さがeSportsの魅力。いい意味での軽さは大切だと思います。

バロ ところが、その後が大変でした。SFCで寄付講座を開くに際しては、当然のことながら会社としての承認が必要です。そこで2018年の4月に当社の経営会議で承認をいただくようお願いしたんですが、これが紛糾しました。SFCは9月からの学期に講座を予定していたので、古谷先生は古谷先生で学内決済を取らなくてはなりません。そのデッドラインと経営会議の日程がちょうど重なってしまって、あれは本当に厳しかった。

森下 時間的に間に合わないと。

バロ そこで上司は古谷先生に「申し訳ありません、取り下げます」と頭を下げたんですが、ところが先生は「いや、やるなら今だ。やらなきゃダメだよ」とおっしゃってくれたんです。その言葉に強く背中を押されて、我々も経営陣を押し切ることができました。

森下 初めてのことだから、経営陣もなかなかイメージを持てなかったのでは。

バロ 「君たちがゲーマーになるのか」と言われたり(笑)。KPMGコンサルティングとゲームというものをなかなか結びつけて考えてもらえなかったし、それが当社にとってどんなビジネスになるのかも見えなかったと思います。最終的には森俊哉・代表取締役会長が「確かにわかりづらい。だが、わからないからこそ、やるべきじゃないか」と断を下してくれました。

大澤 うれしい一言ですねえ。

バロ 森会長は「ただし、ブラックマネーなど、反社会的な要素が見えたら即刻中止すること」と念押しすることも忘れませんでした。とても重要なことですから、古谷先生には、そういうときはすぐに中止にしましょうと伝えました。もちろん先生も同意してくださいました。

――プロジェクトのメンバーはどのように集めましたか。

バロ ゲームが好き、ゲームのことがわかっているという人材を集めました。先ほど森下さんをプロジェクトに誘ったときのことをお話ししましたが、そんな感じで社内の仲間に声をかけていきました。

大澤 私は3月にプロジェクトにアサインされたんですが、最初はeSportsって面白そうだな、というぐらいの軽い気持ちでした。ところがちょっと調べてみたら、例えば韓国には対戦の様子を流しっぱなしの放送局もあるほど盛り上がっていると知って驚き、これは絶対に日本でも盛り上がると確信しました。

バロ コンサルタントの仕事というのは、クライアントの仕事にどれだけの時間を費やしたかという“チャージャビリティ”が評価の基準になっています。しかし、本当に大切なのは時間の長さではなくて、どれだけクライアントと深く共感でき、確かな信頼関係を築けるかではないかと思うんです。たとえ時間は短くてもすごく深い信頼関係が築ければよいのではないか、と。

だからこのプロジェクトでも“共感できること”を重要な基準にメンバーを集めていきました。響き合あえることが大切なんです。

森下 共感の輪は、ずいぶん広がったようですね。

バロ 上司がブログで「eSportsやります」と書いたら、自分から「一緒にやりたい」と連絡してくれた仲間もいましたし、たまたまランチで同席した初対面のコンサルタントが実は熱狂的なゲームファンということがわかって、その場でプロジェクトに入ってくれたこともありました。プレイヤーとして準プロ級の実力を持つ社員が、「なぜオレをアサインしないんだ」と連絡をくれましたし(笑)。私たちもこのプロジェクトをきっかけに社内のネットワークを広げることができました。

大澤 ワクワクしますね。

バロ こんなに社内の共感を呼べるとは予想以上でした。

――今後の展望について教えてください。

大澤 私が一番感じるのは、eSportsのポテンシャルの高さです。最初はゲーム業界だけの話かと思っていたんですが、とんでもない。例えば内閣府の「日本再興戦略2016」においてはスポーツの成長産業化が位置づけられ、「未来投資戦略2017」では2025年までに20カ所のスタジアム・アリーナの実現が掲げられ、スポーツ産業を我が国の基幹産業へと発展させることで地域経済の好循環システムが構築される、と示されています。スタジアムができれば交通網が整備され、観客を呼び込むための旅行業も活性化されるでしょう。ゲーム業界という狭い話ではなく、無限の可能性を秘めていることがわかります。

バロ ゲームのデータを分析し、プレイヤーにフィードバックするようなデータビジネスは、我々の出番です。データは健康産業にも流用できるでしょう。また、eSportsは仮想通貨とも親和性が高いと思われるので、その面でのオポチュニティも大きいでしょうね。

森下 eSportsは2022年に中国・杭州で開催される「第19回アジア競技大会」で正式種目として採用されることが決定しています。

大澤 2024年にパリで開催されるオリンピックにおいても、正式種目として採用される可能性がありますよね。

森下 オリンピックは「平和」がテーマですから、そこをターゲットにした新たなゲームの開発も行われるでしょうね。

だからこそ健全性を担保することが非常に重要になると思います。お年寄りや障がいを持つ方も障壁なく参加できる、ユニバーサル性も大切な要素ですね。

バロ そんなふうにeSportsがフックとなって、幅広い領域で新しいビジネスが立ち上がっていく可能性があります。プロ野球やJリーグと肩を並べるような存在になっていくことを期待しましょう。

大澤 日本でのeSportsはまだ始まったばかりですから、先が見えない楽しさがありますね。これからどんな夢でも描くことができると思います。

バロ 上司が、ある学校で中学生向けに職業教育の特別授業を行ったとき、データサイエンティストをテーマにした回は満員の大盛況だったのに、コンサルタントをテーマにしたときは閑散としていたそうです。“コンサルタントという職業は中学生に人気がないんだねえ”と上司はショックを受けていました。

森下 寂しい話ですね。

バロ しかし、これからeSportsを核とした新しい産業を我々が創り出すことで、クライアントの経営課題を解決するだけではない、新しいコンサルタント像というものも創り出せると思うんです。それこそがAI時代におけるコンサルタントの社会貢献ではないでしょうか。日本の未来を切り開く若い世代が目指してくれるような、そんなコンサルタント像を創りたいですね。

――最後に、どんな人材に仲間になって欲しいとお考えですか。

大澤 eSportsのプロジェクトに限らず、KPMGコンサルティングでの仕事の面白さは、“先が見えないところ”にあると思います。見えないからこそイメージする力が必要になるわけですが、言い換えればそれは“妄想する力”ということになるでしょう。前例のないこと、お手本のないことを妄想する力を持っている人ほど、当社で楽しむことができると思います。

森下 そうですね、eSportsのプロジェクトもまだまだ立ち上がったばかりで、先が見えていません。だからこそどう発展させていくか、未来の設計図を描くことが必要です。人を巻き込みつつ、推進していく力のある方に期待したいですね。

バロ 自分でプロジェクトを楽しみつつ、周囲の人も楽しませられるような方がいいですね。大澤さんが今言ったように、私もこのプロジェクトについては先が見えません。だからこそワクワクするし、多様な背景を持つ仲間と同じ未来を目指していくムーブメントを楽しんでいます。中国、オランダ、オーストラリアと、KPMGには世界中に同じようにムーブメントを楽しむ仲間がいますから、そうした交流を面白がれる方に力を発揮していただきたいですね。楽しみながら社会に新しい価値を提供して貢献しようという大きな志を持った方と、一緒に挑戦していきたいと思います。