KPMGコンサルティングでは、組織におけるリーダーシップ開発に向け、グローバル共通のフレームワークの活用のみならず、現地視察・さまざまなリーダー達との対話型人材育成プログラムを用意しています。
今回はリーダーシップ開発に関する投稿の第4回目として、原発被災地である福島沿岸部で開催した「福島フィールドスタディ研修」についてご紹介します。
■そこにある”リアル”
東日本大震災が起こった2011年から今年で14年。福島の湾岸エリアでは、東京電力福島第1原発事故による放射性物質の放出・拡散により、原発周辺の7市町村の一部が現在も避難指示区域に指定されており、大熊町、双葉町などの復興拠点ではインフラ整備が進む一方、避難先からの帰還を望む住民は今のところ、わずかな数にとどまっている実情があります。
そのような現状を打開すべく、南相馬市出身・元東京電力執行役員であった半谷氏が地元の復興・創生のために”一般社団法人あすびと福島”を立ち上げました。同法人が提供する社会課題体感フィールドスタディプログラムに、筆者を含む合計11名のパートナー、アソシエイトパートナー、シニアマネジャーが参加しました。
外部環境がダイナミックに変化し、AIなどの技術が発達・発展していくことでコモディティ化の一途を辿っているコンサルティング業界において、単一的な大企業の課題解決だけでなく、より大局的な視点・視座に立ち、クライアントのみならず業界や社会全体の非連続な成長を、自ら仕掛け提案していける人材が強く求められています。未来にイノベーションを起こし企業や業界の発展を支えて行くためには、「社会課題をどのように解決すべきなのか?」の問いに向き合うことが必至です。このプログラムを通して、参加メンバー各人は、ビジョンと目指すべきリーダーシップの外観の解像度をグッと上げられた学び多い時間であったと思います。
■プログラムを通じた”内省”と対話
プログラムは現在も避難指示区域に指定されている福島沿岸部の”被災地視察”から始まり、復興・創生を目指す志を持った”現地リーダー(社会起業家)との対話”、”ありたい社会と自身のありたい志の内省”、”自己の大切にしたいリーダーシップの内省・構想(アウトプット)”の4ステップ1泊2日の構成で実施されました。
現在も不確実・不透明な状況が続く被災地の「影」と「光」を五感で体感し、現地のリーダー(社会起業家)の生い立ちや、起業・事業・復興への”想い”と”行動”に触れることで、今まで感じたことのないような”心の揺さぶり”、心の底から湧き上がってくる言いようのない”ゆらぎ”と”震え”を今も鮮明に覚えています。特に、小高産の唐辛子を活かした商品の開発・販売を手掛ける小高工房代表の廣畑氏との対話の中において、震災後さまざまなものを失い絶望に打ちひしがれる中においても、”自分が笑顔でいれる行動“を前提に”変えられるもの”を着実に見極めチャレンジして変えていく実行力は、とても印象的且つ我々自身学ぶべき点がかなり多くあったと感じています。
この2ステップを経て、いよいよ”自己の内省”に移ったわけですが、左脳のロジックだけではなく、右脳の感性が極限にまで研ぎ澄まされていたことで、本質的にありたい自分、ありたい社会、ありたい仕事の外観につきメンバー同士で積極的な自己開示と対話を実施することが可能となりました。この対話の中での気づきと示唆は、「周りの人々が巻き込まれたくなる状況を創る力」こそリーダーシップの本質であり、その基本は謙虚さ・誠実さにあるという、あすびと福島の半谷氏の考えです。そしてその謙虚さと誠実さは”志”、”熱量”、”感性”が形づくるものであり、この不確実・不透明な時代において必須であるものと納得感を持った上で自身に落とし込めたことは大きな収穫でした。この福島というフィールドでなければ、ここまで自らを内省し、志と自身のリーダーシップに向きあうことは確実にできなかったと思います。
■自己の”主観”を軸としたリーダーシップへの昇華
ここ数年、「CSV(Creating Shared Value)」という考え方が注目されています。CSR(Corporate Social Responsibility)は、企業が本業とは別に社会貢献活動を行うものでしたが、CSVは「本業そのものを通じて社会価値を創出する」という考え方です。つまり、ビジネス活動自体が社会課題の解決に直結するべきだ、ということです。今後も人工ビジネスを前提とした従来的な大企業の個別課題解決型コンサルティングは一定残っていくとは思いますが、そのスタンスのみならず「正解のない社会課題」に対して、いかに道筋を示していくかがコンサルティングの本質的な使命であると考えています。
この研修を通じて、参加メンバー全員が「正解を探す」のではなく、「自分が何をやりたいのか」を基軸に置いたビジョンと、あるべきリーダーシップの外形を形作れたことは大きな収穫であり、各メンバーが”じぶんごと”から”会社ごと”へ、”会社ごと”から”社会ごと”へのコンセプトを大事にしつつ、日々のリーダーシップを体現していく良い学びの機会となったのは間違いありません。
“志”をもったリーダーが集まり、育ち、リーダーシップを体現しインパクトを創出していく。リーダーシップの旅に終わりはありません。今後もKPMGコンサルティングは十人十色のリーダーシップを尊重し、プロフェッショナルなサービスを前提にしつつも、それぞれの”青”を最大限に誇り、体現化していける環境作りに”覚悟”を持ってチャレンジして参ります。
本稿では被災地復興×リーダーシップをテーマに実施した研修プログラムについてご紹介しました。
計4回に渡りKPMGの考えるリーダーシップについてお送りしてきましたが、KPMGに関心を持ってくださった皆様にとって、仕事に限らず、日々の生活の中での何かしらのヒントになれば幸いです。